第45話
そんな事を考えていると……。
「―――ユ、ユウマ君!」
村の方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
そちらへ視線を向けると幼馴染のリリナが両手を後ろに隠して立っていた。
とても挙動不審に周囲を見渡している。
リリナも何かあったのだろうか?
つい俺は身構えてしまう。
こいつは、このパターンになると顔を真っ赤にして殴ってくるのだ。
それに、俺はこいつのお兄ちゃんでもない。
只の幼馴染に過ぎないし、話の最後には、支離滅裂な事を言って怒ったまま、走り去ってしまう。
「リリナ、どうした?何か村で問題でも起きたのか?」
今は、一応は俺が村長代理という事になっているから言い辛い事や困った事も相談に乗る必要があるだろう。俺の言葉にリリナがソワソワし出す。
やはり何かあったようだ。
俺がハンターとしてヤンクルさんの所に弟子入りしてから、事情は改善したと思っていたがまだまだのようだ。
俺もまだまだ青いってことだ。
つくづく反省させられる。
もっと村人同士仲良くできたらいいのになと思う。
「―――えっとね!」
リリナが意を決した顔をして背中から包丁を取り出す。
「―――リリナ、それは!?」
そうか、俺はそこまでリリナに恨まれていたのか。
たしかに毎回、顔を真っ赤にして逃げていくからな、それが蓄積してとうとう爆発したのか。
あれだな、人がいない時間帯を狙っての夜半の犯行。
くそ!まさか内部にこんな爆弾があるとは予想できなかった!
だが、俺はまだヤラれる訳にはいかない。
身構えた俺を見て、リリナが微笑んでくる。
リリナの勝利を確信した笑み、それは俺に勝てると確信したものなのか?それともまた別の何かなのか?予想がつかない。
まさかこんなどんでん返しが待ってるとは予想外だ!
「えっとね……ユウマ君が寝ないで見張りをするって聞いたからね。お昼のイノシシの肉を煮込んだの」
リリナがもう片方の手から木綿製の布袋を取り出す。
木綿製の布袋から肉の固まりと麦飯を握った物を取り出し、肉の塊を包丁で切っていく。
そして木のお皿の上に盛り付けた後、俺に差し出してきた。
「い、一生懸命作ったけど……おいしくなかったらごめんね……」
顔を真っ赤にして潤んだ瞳で俺を見上げてくるリリナを見ながら俺は、木製の小皿を受け取った。
包丁で切られたイノシシの肉は塩などで味付けされており素材の味が引き出されていておいしい。
そして麦のお握りを食べていると、この近辺の森の一部に生えている竹で作られた水筒を差し出された。
水筒を受け取り飲むと少しだけ砂糖の味が舌の上に広がる。
「リリナ!これ、すごくおいしい!」
俺は思った事を素直に言葉に出した。
自分自身が作る料理なんてヤンクルさんに狩りの仕方や冒険者としての立ち回りを教えてもらっていた時でも焼くくらいしかした事がない。
そんな俺からしたら、リリナの料理はとてもおいしい。
さりげなく働く人への気配りとして稀少な砂糖まで水に溶かしている。
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