第42話

「……ユウマ君は、もしかして聖人なのかい?」

 と話しかけてきた。


「聖人ですか??よくわかりませんが?」

 俺は惚けたまま魔力を注ぎ井戸を生成した。


「それではウカル様、この手押しポンプを上下に移動してもらえますか?」

 俺の言葉にウカル様が頷くと手押しポンプのレバーを前後に動かし始めた。

 それに伴い。水が手押しポンプの蛇口から排出される。


「おお!これはすごいね。ユウマ君、これがあれば多くの村どころか町も王都も助かるよ!ぜひ作り方を教えてもらえないかい?」

 ウカル様の言葉に俺は頭をふる。


「いまは、川まで水を汲みにいけないので非常事態ということで作りました。残念ですがこれを一個作るだけで寿命が1年縮むんですよ。ですから量産は無理だと思います」


「そうなのか」

 しょぼんとウカル様が肩を落としたが、多少の嘘は勘弁して欲しい。

 こんな技術革新的井戸があったらこの世界にどれだけの影響があるのか予想もつかない。

 ウカル様へ井戸の使い方を教えた後、アース神教の秘儀で作ったと村人へ説明すれば村人からの信頼度が上がりますよと説明しておいた。

 これでウカル様は必死に井戸を守ってくれることだろう。

 あとはヤンクルさんと交代して北側の堀とウラヌス十字軍の動きをチェックするだけだな。




 ウカル神父と別れた後、その足でヤンクルさんがウラヌス十字軍を見張ってる場所へ戻る。

 するとヤンクルさんだけじゃなく、もう一人の人影が目に入った。

 近づいていくと俺に気がついたのか、その人影は一生懸命手を振りながら


「おにいちゃ~ん」

 と叫んでいる。

 何か重大な事でも起きたのかと走って近づくと妹のアリアだった。


「どうした?何か問題でも起きたのか?」

 俺は《探索》の魔法を発動させながら妹からの話を待つ。

 探索魔法からウラヌス十字軍が動いている様子はとくに見受けられない。

 魔物や動物も村に近づいてこない所を見ると何か深刻な問題が発生したのだろうか?


「……ぐすっ、おにいちゃん」

 突然、妹が泣き出したと思ったら俺に抱きついてきた。

 これはどうやらただ事ではないようだ。

 くそ、やはり一人では村を守るには限界があるのか……。


「おにいちゃんと一緒に寝ないと眠れない……」

 俺の妹は何を言っているのだろうか?


「妹よ。もしかして、ここに来た理由はもうすぐ夜で寝る時間だけど俺が一緒に寝てくれないから呼びにきたのか?」

 そう妹は極度のお兄ちゃん子なのだ。

 俺の所有する知識の中には、妹にどうやって対応していいかのマニュアルがない。

 ただ、10歳になっても『おにいちゃんと将来結婚する!』とか言っては、親父と母親が『仕方ない。ユウマ、きちんと責任を取るんだぞ?』とよく冗談を言ってきている。

 とことん、妹に甘い両親だな。。

 まあ、妹とはずっと同じ部屋で暮らしてきたから、俺がいないと眠れないというのはもしかしたらあるのかも知れないな。

 お兄ちゃん子なアリアにとって、俺と眠れないのはそこそこ重大な問題なのだろう。

 だがな……そろそろ兄立ちしても言い気がするんだが。


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