第10話
リリナが俺の腕を掴んで見上げてくる。
不安な表情で、その瞳には涙を湛えていた。
「……あんなに……あんなに色々知っているのにどうして駄目なの?」
リリナは必死に俺に縋ってくる。
移住者の彼らにとって、いや彼女にとって縋れるのが俺しかいないのは分かるが……。
「リリナ、話は最後まで聞いて」
と俺は子供を諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
そう。俺が女性に狩り方を教えるには問題がある。
だが、男が狩りをするなら問題ない。
なら?どうすればいいか……答えは出ている。
丁度、魔法や体術の練習を本格的にしたいと思っていたのだ。
「ヤンクルさん、その体の怪我のことを、ご家族以外で知ってい方はいますか?」
俺の言葉にヤンクルさんは頭を振って答えてくる。
つまり家族以外にはヤンクルさんが骨折して重傷を負ったことを知る人はいないという事になる。
薄々感づかれてい可能性もあるが、幸いな事に奥さんが狩猟をしてくれていおかげでギリギリ誤魔化せているようだ。
それなら、手の打ちようはある。
今なら、ヤンクルさんが俺を弟子にして奥さんが狩りしてきた獲物の分も俺が狩猟してきたと言ってしまえばいい。
「ヤンクルさん、俺と契約しませんか?契約をして頂ければヤンクルさんの代わりに獲物をとってきましょう」
相手の弱みにつけ込む形になってしまうが、納得してもらうしかない。
本当なら、こんな手法は取りたくないが……。
「どういうことだ?」
俺の契約という言葉にヤンクルさんは不審がっている。
まぁ……冒険者というのは依頼を受けて仕事をすると聞いた事があるからな。
疑い深くなるのも仕方ないと思う。
だけど、ここは納得してもらうしかない。
「簡単な話です。猟師見習いとして俺をヤンクルさんの弟子にしてもらえますか?そうすれば、奥さんが村の掟を破って狩りをしている獲物も俺が狩猟してきた事にしますので……」
俺の提案に、ヤンクルさんはしばらく考えたあと頷いた。
「………分かった……村長にはそう伝えておく。どうかよろしく頼む」
ヤンクルさんは、10歳の俺に向けて頭を下げてきた。
俺は頷きながらも、まずやる事を頭の中で組み立てていく。
そして、その中の最優先項目をまず行う事にする。
まずは怪我の治療。
俺が5歳の時に教会のウカル司祭使っていた回復魔法を見てから練習していたもの。
それは世界の理であり、この世界の魔法の真髄。
最初、ウカル司祭様が使っていた魔法と呼ばれる奇跡の術は、俺にとってまったく馴染みがないものであった。
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