第9話

「ヤンクルさん自ら教えるのは難しいという事ですか?」


 俺の問いかけに彼は頷き、毛皮で作られた布団を剥がして俺にそれを見せてきた。


「……これは……」


 足が不自然に折れ曲がっていて患部が紫色に変色している。

 そして折れた先からは真っ青になっていて血が通っている様子が見られない。

 まだ壊死までは行ってないがそれも時間の問題だろう。


「このとおりだ。森でタルスノートと出会ってしまって逃げたが崖から落ちてしまってね。幸い村まで戻る事は出来たが……」

「これだと身動きが取れないですね」


 俺は言いつつ腕を組んだ。

 そういえば今日、教会で子供達に勉強を教えている時に、各家庭へのお肉の配分量が減ってるというような話を聞いた気がする。

 特に気にしてはいなかったが、問題は……滞っているんじゃなくて減ってるという点だ。

 つまり誰かが狩りをしているという事になる。

 そして今、この家にはヤンクルさんと娘のリリナさんの姿しか見られない。


「すいません、少しお伺いしてもいいですか?」


 俺の子供らしからぬ言葉にヤンクルさんが目を見開いたたが今はそれはどうでもいい。


「奥さんは今どちらに?」


 俺の言葉にヤンクルさんは目を逸らした。

 つまりそういう事だ。

 狩猟が出来ないという事は税金が払えない。

 つまり、村での立場がなくなってしまう事になる。

 下手をすれば、村から追い出される可能性もある。

 だから、隠れて奥さんが狩猟まがいな事をしているのだろう。


しかし狩猟の許可が下りるのは男性のみ、それは男性至上主義であるこの世界において女性が狩猟することは禁止されている。

 それは山の神の怒りを買うからとも言われているが実際のところそうではない。

 男性の活動領域に女性が入り込む事を教会も国も了承してないからだ。

 それなのに性別的には女性であるリリナに狩猟を教えてほしいという事は、その禁則事項を破る事を意味する。

 つまり、ヤンクルさんは、今回の話をアライ村長に相談していない。

 これは俺の一存で受けてはいけない内容だと思う。


「申し訳ありません。村の規律を俺が破るわけにはいきません」


 そう俺の一存で村の規律やルールを破る事は家族にも迷惑がかかる事になる。

 子供達に勉強を教えているのだって教会のウカル司祭様を口八丁で唆して説得したからできたことだ。

 将来、村の発展を手伝ってもらうために、俺の一存で勉強を教えてるだけに過ぎないからだ。


「……そうか……無理を言ってすまない」


 俺との言葉のやり取りと返答を聞いてヤンクルさんは全てを察したのだろう。

 見るからに落胆した表情を見せた。


「――どうして?……なんで?」

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