第2話

 俺が住む村の人口は300人程度だが、学問や学校という概念もなく、文字が読める人の数は限られている。

 ただ、不思議なことに文字だけは俺の知識の中にある文字や言語にとても良く似ていたので、俺は読み書きは普通に出来た。

 この村で唯一の知識階級であるアース教会のウカル司祭様神父様の話によるとニホンゴというらしい。

 俺は、小さい頃に最初から文字の読み書きが出来ただけで特別な勉強をした訳ではない。

 ただ、不思議な事に漢字という文字は、この世界では殆ど見なかった。

 そして漢字である「風」などの一文字を思い浮かべると微風が発生したりしたが俺はあまり気にしなかった。

 

 さらに、この世界大きな特徴として、宗教組織がかなりの力を持っていることがある。

 

 教会を中心とした厳粛なる一神教が地域を支配していて、さらに国ごとに違う宗教が乱立している。民を支配するための政治にもからんだ一神教はかなり排他的で、宗教戦争なども頻繁に起きているらしい。

 「神」という威厳が支配階級には必要なのかもしれないが、俺から言わせるとかなり胡散臭く、支配される側の民にとっては問題しか起こしていないという感じだ。

 幼い頃から字が読めたために神童と噂されたときに、この村のアース神を信仰する教会のウカル司祭様から、教会に勧誘されたりもした。

 しかし宗教に対してあまり良い印象を持っていない俺は、「冒険者になりたいから」と言って断った。

 冒険者は戦神トールと契約を結ぶのだが、国教であるアース神とは不干渉の立場を取っているらしく、断り文句としては最適だった。


 ただ、母さんや父さんには怒られた。


 何せ、父さんも母さんも信仰しているのがアース神で、もちろん俺もアース神を信仰するべきと考えていたからだ。俺は長男だから家督を継ぐのは当たり前と思われていたし、何より家を継がず冒険者になるなんてもってのほかだと怒られた。

 それから後は、家を継ぎたいからと言葉を濁すことにした。しかし、ウカル司祭様からすれば考えられないことだっただろう。何せ教会は強い力を持っていて地方の司祭でも農民の5倍近い年収が支給される。

 教会に入らないか? と誘いを受けられる人間は限られており、もし教会に帰属する事になれば王都で16歳まで勉強してからいくつかの教会で下積みをして司祭にだってなれるのだ。

 とはいえ、俺から言わせれば識字率が低い世界だからこそなれる特権階級というものに近い。

 教会の仕事の内容は、生誕名簿作成や徴税証明書など多岐に渡る。自給自足に近いこの世界では生きていくのに全く必要ではない読み書き計算ができなくてはならず、教会として頭のいい人間をスカウトするのは当然なのだろう。

 ただ生まれてから、宗教の悪い側面ばかり見聞きしてきた俺としては胡散臭い組織に入りたいなどとは思わなかった。


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