第16話 リバーランド①

昨日俺は由紀を"デート"に誘った。

何だろう今までに何度も2人で一緒に出掛けたことはあるはずなのに凄く緊張する。それに田辺と話をして由紀とは変に意識せずに普通に接しようって決めたはずなのに最近は由紀のちょっとしたしぐさや言動も凄く気になってしまう。

意識しないようにと思うと余計に目で追ってしまうんだよな。


それにリバーランド。

あそこって、この時期はイルミネーションもやってるし多分カップルばかりだよな。誘っておきながら言うのも変だけど由紀も期待はするよな。

どうしたいんだよ俺は・・・・


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そして週末の土曜日。


今日は由紀とデートの日だ。

着ていく服は前日の内にさんざん悩み用意した。

そして、遅刻しないように早めに起きて(というか緊張してあまり眠れず)朝食も食べた。

後は出かけるだけなんだけど何だか気持ちが落ち着かない。

もう何度リビングと自分の部屋を往復したか・・・

歯磨きも3回はしたかな。


「お兄ちゃん 少し落ち着きなよ。

 いくら由紀姉とのデートが楽しみだからってそんなに緊張しなくても」

「でもさぁ~ って俺お前に由紀との事話したっけ?」


話した記憶は無いけどなんでデートの事を知ってるんだ?


「お母さんに聞いたよ。由紀姉、お兄ちゃんにデート誘われたのがメチャクチャ嬉しかったみたいで今日のためにお弁当作るとか張り切ってるらしいんだよね。で、それを見たおばさんが、うちのお母さんに話したみたいで」


・・・恐るべし母親ネットワーク。

プライバシーとかないのかよ。


「ま、でも由紀姉の事は私も大好きだし、最近色々あったみたいだけど、本当のお姉ちゃんになるのも嫌じゃないからデート頑張ってきてね」

「・・・・サラッと凄いこと言うな」


結局、家に居ても落ち着かないので、待ち合わせ場所に行くことにした。

ちなみに由紀の家は隣だ。

このまま声を掛けて一緒に行くことも出来るわけなんだけど、敢えて特別感を出すため今回は川野辺駅で待ち合わせにした。

まぁ田辺のアドバイスなんだけど、一緒に家から行くよりも何となくデート感が出るんじゃないかという話しだ。

確かに今までは家から一緒に出掛けていたし、待ち合わせっていうシチュエーションはほとんどなかった気がするからちょっと新鮮だ。


バスに乗って川野辺駅に着いたのは8時半。

待ち合わせまではまだ1時間も時間がある。


『流石に早すぎだよな・・・』と待ち合わせ場所の駅改札から近くのコンビニに視線を移すと・・・コンビニ前のベンチに座る由紀の姿が。


向こうも俺に気が付いたのかちょっと驚いた顔をしてる。

俺は由紀に近づき声を掛けた。


「待ち合わせまでまだ1時間はあるぞ」

「そういう和君だって・・・」

「ははは お互い張り切り過ぎだな」

「そうだね♪」


何だか2人して笑ってしまった。

そうだよな。緊張してたのは俺だけじゃないんだよな。


「「・・・・・」」


が、緊張の為か何だかお互いの顔を見たまま黙り込んでしまった。

『やばい。な 何か話さなきゃ』

と今日の由紀をあらためて見ると、普段のポニーテールとは違って今日はゆるふわな感じで髪を流していた。それに着ている服も落ち着いた感じの服で全体的にちょっと大人っぽい感じで・・・綺麗だ。


「・・・あ あのさ髪型いつもと違うんだな。

 それに服も大人っぽくて似合ってるよ」

「ほんと!ありがとう。その・・・か和君もカッコいいよ」


あらためて、こういうこと言うのって照れるよな。

嬉しそうにしながらも照れているのか由紀も頬を赤くしてる。

そうだよな。可愛いとか好きだとかってのも思ってるだけじゃなくて、ちゃんと言葉や行動で示さないとだめなんだよな。


「予定より早いけど行くか?」

「うん!」


由紀も楽しみにしてくれているんだし俺がしっかりしなくちゃ。

俺がそっと由紀の手を取ると、少し驚きながらも由紀はその手を握り返してきてくれた。


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リバーランドは一昨年隣町に出来た遊園地だ。

その名の通り川沿いの作られた遊園地で都心の大手テーマパークには劣るが、観覧車やジェットコースターといった定番施設の他に緑地が併設されバーべキュー設備やキャンプ施設などもあり自然が豊富で安価に楽しめるということで、学生や家族連れを中心に人気となっている。

そして今の時期は、夕方から閉演までの時間で施設や木々に仕掛けられたイルミネーションが行われデートスポットとしても注目を浴びている。


「まだ開園まで時間があるから、少し散歩でもしょうか」


俺と由紀は手を繋いだまま、隣接する緑地の中を散策した。

土曜日の午前中。ちらほら散歩している人は居るけど静かで気持ちがいい。

それに何となく空気も美味しい気がする。


「由紀ってリバーランドは来たことあるのか?」

「うん。出来たばかりの頃にだけど、お友達と来たよ」

「そうなんだ。俺は初めてなんだけどお勧めとかある?

 調べた感じだとジェットコースターが良い感じみたいだけど」

「うん。ジェットコースターは人気だよ。後は観覧車かな」

「じゃ後で乗ろうか!」

「うん」


電車の中で色々と話をする時間を持てたおかげで、2人ともだいぶ緊張はほぐれていた。

折角なんだし楽しまなくちゃな。



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