第5話 なんで?

-Side 森田 由紀-


私の名前は森田由紀。

森下学園に通う女子高生。今は2年生だ。

勉強も運動も多分平均レベル。

見た目は、少し背が小さいのは気にしてるけど、よく周りの子からは"可愛いね"とか言われるから・・そんなに悪くはないと思う。


さて、そんな私には好きな人がいる。

お隣に住んでる幼馴染の藤原和志君。

同い年で、私と違って頭も良いし運動神経も抜群!

そして何よりいつも私に優しい。

小さい頃からいつも一緒で、私が困っているといつでも助けてくれた。


でも・・・そんな和君に私は不満もある。

高校生になるまでほとんど毎日一緒にいるのに未だにキスさえしてくれない。

私って彼女じゃないの?

ただの友達なの?

それとも女としての魅力がないの?

周りの子は私が和君と付き合ってると思ってくれてるし、私も付き合ってるとは思ってるんだけど、和君はカッコいいから正直不安。


そんなことを思い最近はモヤモヤした気分になることが多かった。

だって、友達は彼氏とキスしたとかお泊りしたとか色々と話してくれるのに・・・


そんなある日。

川野辺高校に通う友人と久しぶりに会った後、家に帰るため駅前のバス停に向かっていた私は、商店街の雑貨屋さんで和君を見かけた。

『こんなところで何してるんだろう?』

声を掛けようと思って店に向かおうとしたら、綺麗な女性が和君と親し気に話をしているのが見えた。

『え?あれって夏川さん?』

和君と同じバスケ部の子で確か和君とはクラスも同じ。

『なんで夏川さんが和君と?』

私は嫌な予感がして、声も掛けられず二人を見続けてしまった。


そして数分後、二人は店から出てきた。

和君は何か買ったらしく小さな袋を持っていた。

私は気付かれないように二人の後をつけた。


二人は楽し気に話をしながら駅前の喫茶店に入っていった。

『これって・・・デートだよね』

・・・やっぱり私ってただの友達だったの?

和君・・・そうなの?

夏川さんは凄く美人だし、頭も良いし、私じゃ・・・敵わない。


その後の事はあまり覚えてないけど、私はいつの間にか家に居た。


「あれ?由紀帰って来てたの?」

「うん」

「ん?何だか顔色悪いけどどうかしたの?」


お姉ちゃんに声を掛けられて緊張の糸が切れたのか、私は泣きながらお姉ちゃんに和君の事を話した。


「う~ん 和君が女の子とねぇ~ それって本当に和君だったの?

 どうも和君が由紀以外の子とデートしてたって信じられないのよねぇ」

「間違いないよ。私が和君を見間違えるわけないよ」

「でもねぇ」

「嫌だよ。私和君と離れたくないよ」


いつでも私は和君の1番だった。

だからいつまでも私は和君の隣に居れるんだと思っていた。

でも、そうじゃなかったのかもしれない。

そんなの嫌だ!

今思えば、私はこの時まともな思考は出来てなかったのかもしれない。


「わかったから・・・」

(でもそうねぇ。和君に直接聞きにくいから、私に泣きついてきたんだよね・・・どうしようかしら)


「そうだ。由紀も彼氏を作ったら和志君も妬いてくれるかもよ」

「え?私が彼氏を?嫌だよそんなの。私は和君が・・」

「わかってるわよ。まさか本当の彼氏作れとか言わないし。

 翔太に手伝ってもらうのよ。翔太なら和志君とも知り合いでしょ?」

「吉野君に?」

「そう。翔太に和志君と話してもらうの」


そうか。吉野君に私の"彼氏"を演じてもらって和君にやきもちを・・・

和君は私の事が好きなはずだから、きっと私を吉野君から奪い返そうとしてくれるはず。


「でね。翔太に"由紀に告白しようと思うんだけど"とか和志君に言ってもらうの。

 和志君が由紀の事を好きなら翔太を止めるでしょ。

 ・・って由紀聞いてるの?」

「え?うん。お姉ちゃんありがとう。

 吉野君に”彼氏役”をやってもらうんだね」

「本当に大丈夫? わかったなら翔太には連絡しておくよ」

「うん。お願い」


-----------------

翌朝。いつも通り和君と学校に行った。

昼休みは用事があるからお昼は一緒に食べれないことも伝えた。

昼休みはお姉ちゃんから彼氏役を頼まれた吉野君と話をする約束になっているんだ。

吉野君とは中学時代に知り合って和君や笹原君たちとよく一緒に遊びに行ったりしていた友達だ。

サッカー部のエースで女子にも人気がある。

でもお姉ちゃんの彼氏なんだけどね。

いつの間に付き合い始めたのかは私も知らないけど初めて聞いたときは驚いた。


昼休み。吉野君とは校舎の裏庭で待ち合わせした。

ここは日も当たらないので昼休みは滅多に人が来ないんだ。


「だいたい内容は綾女から聞いたけど・・・本当にこんなことやるのか?

 俺も藤原がお前以外の女とデートするとか思えないんだけど」

「・・・お姉ちゃんに頼まれたんでしょ?

 だったら彼氏役お願い。和君とちょっと話してくれるだけでもいいから」

「う~ん。まぁ森田がそれで納得するなら構わないけどな。

 思い通りの反応があるかはわからないぞ」


吉野君と話をした後、午後の授業を終えた私は、部活に行く前に和君達の教室へ行った。そして予定通り和君に『彼氏が出来た』って伝えた。

お姉ちゃんに言われた通り吉野君に"彼氏役"をやってもらうんだから、和君に彼氏が出来たって事は伝えておかなくちゃ。

・・・あれ?なんで笹原君や日岡さん慌ててるんだろ。

それに和君も何か言ってよ。私に彼氏が出来ても良いの?


え?『よかったな』って・・・・なんで?


和君は青白い顔をして、そのまま教室を出て行ってしまった。

笹原君と日岡さんもそれを追いかけた。


なんで?

私は直ぐに吉野君に電話をして和君達の事を伝えた。

何だか電話口で酷く慌てているようだったけど『何とかしてみる』って言われた。私が何か間違ったの?吉野君が彼氏役を演じてくれるんだよね?


------------------

そして次の日。

結局、昨日は吉野君からの連絡はなかった。

だから、いつも通り和君と学校に行くために和君の家に行った。


でも『俺はただの幼馴染なんだから学校には彼氏と行け』って・・・

それに私の事も名前じゃなくて名字で"森田さん"って・・・


なんで?

私はただ、和君と一緒に居たかっただけなのに・・・


お昼休みも和君たちのクラスに行こうとしたら、和君のクラスの女の子達に"彼氏と二人でお昼食べればいいでしょ”って教室に入れてもらえなかった。


吉野君に相談したら、昨日の和君とのやり取りを説明された。


私と付き合ってもいいって言われたって・・・・ねぇなんで?


吉野君は、私の問いかけに困った顔をしてたけど、もう一度和君と話をしてくれって言ってくれた。


そして夜。電話が来た。駄目だったって・・・

和君からは『森田さんを幸せにしてやってくれ』って言われたって。


なんで?

和君にとって私はやっぱりただの友達だったの?・・・


------------------

そして今日。

私はもう一度和君の家に行った。

そして、勇気を振り絞って『和君と一緒に学校に行きたい』と伝えた。

でも・・・駄目だって。

やっぱり和君は私の事なんて・・・自然と涙が出てきてしまった。


学校に着いて授業を受けたけど何も頭に入らない。

気分も悪くなってきたので、その日は学校を早退した。

仲が良い友達は心配してくれたけど何だか、クラスのみんなが私を見る目が今までと変わってしまった気がする。


家に帰った私は着替えもせずにベッドにもぐりこんだ。


和君・・・やっぱり私より夏川さんの方が好きなの?


和君・・・会いたいよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る