第2話 いつもと違う日常
笹原たちに慰められながら帰宅した俺は、そのまま部屋に籠り楽しかった日々を思い出していた。
一緒に買い物や映画にも行った。
遊園地も楽しかったな。
お化け屋敷では由紀が悲鳴上げて俺に抱き着いてきたり。
だけど、これから由紀の隣は俺じゃなく吉野なんだ。
吉野が由紀とキスしたり抱き合ったり・・・正直つらいし考えたくもない。
恋愛成就で有名な川野辺天神のお祭りも一緒に行ってお参りもしたはずなんだけど・・・俺の願いは叶わなかったみたいだな。
でも由紀は、俺を"仲が良い幼馴染"だとして彼氏が出来たことを報告してくれたんだ。だったら・・・俺も"仲が良い幼馴染"として由紀の幸せを応援しないとな。
途中、夕飯も食べずに部屋に籠っていた俺を心配した母さんや妹の美里が部屋に様子を見に来てくれたけど『由紀と別れた』とだけ伝えた。二人とも気を使ったのか何も言わずに戻っていった。
由紀にしてみれば俺は恋人じゃなかったわけだし、告白もしてないわけだから"振られた"というのは少し違う。"別れた"も何だか違う気はしたが他に言葉が浮かばなかった。
一晩泣いて、考えて、俺の中では上辺だけかもしれないけど由紀に対する気持ちの整理は付いた気がした。
当然直ぐには割り切れないし、まだ辛いけどこの先は由紀と少し距離を置いて仲の良い友人として過ごすつもりだ・・・って考えていたのに。
「なんで森田さんがここにいるんだよ!」
「なんでって、いつも一緒に学校行ってるでしょ?
それに森田さんって?」
かわいらしく頭を傾ける森田さん。
学校へ行くため、家を出たら玄関の外で森田さんが俺を待っていた。
今更ながらに森田さんが何を考えているのかよくわからなくなってきた。
「昨日俺に言ったよな。吉野と付き合うことになったって」
「うん」
「世間一般に彼氏持ちの女が他の男と一緒に通学ってどうなんだよ。
それに名前呼びも彼氏からしたら馴れ馴れしくて面白くないだろ」
「あ・・・」
「そういうことだ。吉野の家も近所だろ?これからはあいつと一緒に学校行け」
と何やら急に慌てた様子で俺に話しかけてきた。
「だ だけど幼馴染なんだし一緒に行っても」
森田さんは、何でこんなに慌ててるんだ?
そんなに変わったことを言ってるつもりもないし、昨日は彼氏が出来て嬉しそうな顔してたのに。
「幼馴染は関係ない。俺が吉野の立場だったら例え幼馴染でも二人で通学とか面白く思わないからな。っうことで、先行くからな」
「ちょ・・・!」
と俺は玄関で立ち尽くす由紀あらため森田さんをおいて学校に向かった。
そして、校門につくと今度は吉野に声を掛けられた。
何コレ昨日のデジャブ?
「藤原ちょっといいか」
「ん?あぁいいけど始業時間近いから手短にな」
「昨日の件だ。本当に俺は森田と付き合っていいんだな?」
「あぁその件か。言っただろ幸せにしてやれよって。
俺に遠慮することは無いし、あいつと付き合ったとしても・・・お前はちょっとムカつくけど俺の友達でもあるわけだし、森田さんも俺の幼馴染に変わりはない」
「ちょっとムカつくのかよ・・・ん? 森田さん?」
「お前と付き合ってるってのに他の奴が名前呼びとか嫌だろ。
今日から森田さんって呼ぶことにしたんだ。
それから、今まで一緒に登校してたのも断った。吉野も家近いんだしこれからはあいつと一緒に通学してやったらどうだ?」
「え・・あの・・・そ それでいいのか?」
「昨日考えて決めたんだよ。あいつが俺の事を幼馴染の友人として見てるなら、俺も幼馴染として友人の一人としてあいつの幸せを喜んであげようってな」
「・・・・・」
「おっ もういいだろ?早くいかないと遅刻になるぞ」
と俺は校門脇で立ち尽くす吉野をおいて校舎に向かった。
何かブツブツ吉野がつぶやいてるみたいだったけど気にしないことにした。
そこまで面倒を見てやる義理も無いしな。
「マジかよ。だから、こんなやり方上手くいくはずないって言ったんだよ綾女。
最悪のパターンじゃないか・・・」
--------------
教室に着くと昨日の俺と森田さんのやりとりが大多数の人に聞かれていたこともあり、俺に対する接し方が皆妙に優しげだった。
そんなに腫れものを扱うような接し方してくれなくても大丈夫なんだけどな。
と思ったりもしていたが、折角の好意なので受けることにした。
それにしても女子生徒からは今までに無い程に声を掛けられるし、熱っぽい視線を向けてくる人もいるんだけど・・・
そして昼休み。
昨日と同じく、俺は保と日岡さんとで昼飯を食べていた。
当然のことながら森田さんは居ない。
というか、教室の入り口まで来ていたようだが、クラスの女子生徒に追い返されたみたいだ。俺としては別に"幼馴染の友人"として接する分には一緒に昼飯食べるのは構わなかったんだけど、クラスの人達が気を使ってくれてるみたいだ。
「和志。その・・・森田の事は、もう大丈夫なのか?」
「ん。あぁ昨日はみっともないところ見せちゃったな。
まだ1日しか経ってないし吹っ切れたって言ったら嘘になるかもしれないけど、自分なりに整理はつけたつもりだ。
あいつが俺の事を"仲が良い幼馴染"としてみているなら、俺も幼馴染として接するつもりだ。だから、もうそれ以上は無い」
「そうか・・・そうだな。それが良いかもな。
だったら、お前も早く彼女作れよ。
今まで森田ばっかり見てたから気が付いてないかもしれないけどお前ってかなりモテるんだぜ」
「え?嘘だろ俺が?」
そうなのか?俺ってモテるのか?
って告白とかされたことないし女子に話しかけれることも滅多にないぞ。
「やっぱりか。普通に考えてみろよ。バスケ部の副部長で成績優秀。おまけに性格も優しくてイケメンとくればモテない要素の方が少ないだろ」
「後半部分は怪しいけど、確かにそうかもしれないな・・・」
「そうだよ!結構女子の中でも由紀ちゃんが居たから遠慮してる子も多かったんだから。今から告白増えると思うよ」
・・・そうか。俺が森田さんの近くにいることで吉野が遠慮していたように俺に好意を持ってくれてた女子も遠慮してたのか。
本当俺って森田さんの事しか見てなかったんだな・・・
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