4-13 淀んだ血の滴に差し込んだ光が虹を成した時
蓮丈院遊月 AP200 VS フェズ・ホビルク AP2850
訪れたドローフェイズでデッキからカードを一枚引いたのを合図に、押しつけられたラストターンが始まった。
恐る恐る引いたカードを裏返して、何が引けたのかを入念に確かめる。
当初の予定から大きく脱線し、直感のみを信じて戦略を切り替えた末に引いたドローカード。
それは、ミュージックカード――〈無理矢理初めてのメタモルフェーゼ〉。
予言が、大きくはずれた。
「よし! 俺はミュージックカード〈無理矢理初めてのメタモルフォーゼ〉を発動!」
全てが仕組まれていたゲームであると判っているはずなのに、たった一瞬の綻びと化けの皮が剥がれたのを皮切りに、「勝負の流れ」というのかよくわからない感覚が俺に纏わりつく。
「このカードは、ステージ上のコスチュームに手札のアクセサリーカードを追加でマテリアルコーデさせ、その後任意の色に変更させる!」
アクセサリーを無理矢理握らせて衣装を変える様は、よくある魔法少女モノの第一話目のようなシチュエーション。
マスコットから変身アイテムを握らされた普通の少女が、強制的に変身させられるあのワンシーンを表現された歌だ。
イラスト背景はもとより、こいつの効果に記された利点は別個にある。
「俺は手札の〈ブラッデルセン ドレッドボイルドバンド〉を、貴様の〈ファンタジアレインボーワンピ〉に追加マテリアルコーデさせる!」
このカードでアクセサリーを持たせる標的にできるのは、自分だけじゃないこと。
そして、アクセサリーを相手から持たせられる効果に関してはランドリーへ送る破壊ではないため、いくら〈ファンタジアレインボーワンピ〉でも止められない。
扇の如く広げた手札の一枚が飛んで行き、フェズの細い手首に、赤いメタリックな腕輪がはめられる。
こいつ自身のAPは150ポイントあるため、フェズの総APはジャスト3000ポイントになる。
しかし、狙いは過剰着衣によるバーストではない。
「そして、この効果でアクセサリーをマテリアルされたコスチュームは、俺の選んだ色に変更される! もちろん、赤色だ!」
虹色のオーラを纏いつつも、大部分を占めている白で基調された〈ファンタジアレインボーワンピ〉が、再び俺の手によって真っ赤に染まってゆく。
フェズの衣装が腹部から裾や襟の先まで赤一色になったその時、手首に嵌めさせたメタリックバンドが、異様な輝きと振動を放ち始める。
とある条件を満たされた〈ドレッドボイルドバンド〉が、着者の意志を無視して効果を強制発動しようとしている兆候だ。
「〈ドレッドボイルドバンド〉は、マテリアル元の衣装の色が赤の場合に効果が強制的に発動される。その効果とは、まず始めに相手のコスチュームを一着破壊し――」
沸騰しかける夜間の如く震えていた金属バンドが、耐えきれず発光した刹那。
俺の靴が盛大に蒸発した。
この効果でどれを破壊するかは選べるが、今の俺のステージには靴しかない。
「その後、マテリアル元の衣装と一緒にランドリーに送られる!」
つまりは道連れが確約された自爆。
確かに〈ファンタジアレインボーワンピ〉には、相手のAPが低ければ相手の手によって破壊されない無敵の効果を携えている。
しかし、それが着者の手ならば、その無敵の効果は適用されない。
バリアの外からは守られても、バリアの中で、おまけに自決ならば無意味となる。
相手に与えられた呪いの装飾品によって、無理矢理精魂を尽き果てさせられた〈ファンタジアレインボーワンピ〉が、燃え尽きた白灰となって忌中に溶かされてゆく。
フェズ自身のAPは、あの切り札に全て集約されていたため、ワンピが消えただけであっという間に俺との差が広がる。
だが、気を緩めてしまってはまた逆転される。
「ランドリーに送られた〈イクソディアシューズ〉の効果で、デッキからコスチューム一枚をランドリーに送り、デッキからカードをドローする!」
ここでやっと、〈イクソディアシューズ〉の効果が働き、デッキから〈エヴォルナイトゲールワンピ〉を送った後に追加でカードを引く。
引いたカードは、ミュージックカード〈罪悪感の解放〉。
またもやフェズが予知していたカードではない。
「俺はミュージックカード〈罪悪感の解放〉を発動させる!」
〈罪悪感の解放〉は、一ターン以上経っても裏向きのまま発動していないミュージック・アクシデントカード一枚をランドリーに送ることで、同時に一枚ドローすることができる。
対象はもちろん、役目を逃した〈衣装破砕〉。
「前のターンに伏せていたカードをランドリーに送り、カードを一枚ドローする!」
これで三度目のドロー。
もちろん引いたのは、フェズの予想と異なるカード。
「そして〈シンデレラリトライ〉を発動! 自分のランドリーからコスチューム一着をランドリーから追加コーデさせる!」
当初はこれで〈エヴォルナイトゲールワンピ〉を蘇らせてバーストを狙おうとしていた。
しかし、状況が大きく変わったことで、蘇らせる適任も変更となる。
「醜き過去を堪え忍んだ白鳥は、伝説をも越える不屈の魂を持つ! 不死鳥の如く蘇れ! 〈ブラッデルセン エヴォルスワンワンピ〉!」
運命を証明する靴が割られても、己が手にしたもう一つの真実を手にして再び挑む灰かぶり姫の物語のように、ガラスの靴を履くべく舞い戻った蓮丈院遊月の切り札。
しかし、今はまだ羽毛の色のせいで醜くも幼き姿をさらしている。
「これが俺の起こせる魔法と奇跡だ! アクセサリーカード〈ブラッデルセン 血液瓶〉!」
灰色の衣装を纏う俺の首に、ひときわ赤色が目立つ赤い血の入った小さい瓶をつけたネックレスがペンダントとなって下げられた。
「〈血液瓶〉をマテリアルとしてコーデされた色無しのコスチュームは、【飾血】を経ることなく色を取り戻す!」
鎖骨の間を揺らめく生血が詰められたペンダントが夕日の光を跳ね返した時、血の臭いに歓喜したのか〈エヴォルスワンワンピ〉が、空と同じ色へと染まってゆく。
再び熱気と陽炎の噴出によって、色のない翼を背中に生やさせる。
「そして〈血液瓶〉を破壊して、〈エヴォルスワワンピ〉の効果発動!」
首に下げたネックレスを引きちぎり、発動の起動ボタン代わりに瓶を握り潰す。
装飾品と引き替えに相手ステージ上のカードを一枚ランドリーへぶち込む破壊効果。
それは、衣装だけに限られない。
「破壊するのは、貴様の伏せカードだ!」
砕けたガラス片と血にまみれた手に炎を滾らせた俺は、そのまま地表に拳を叩き付ける。
殴った衝撃と炎はアスファルトを伝道し、フェズの足下で寝そべっているカードを下から弾き上げた。
「そして、ランドリーに送られた〈血液瓶〉は、ランドリーに置かれた【飾血】コスチュームを追加でマテリアルコーデさせる!」
粒になるまで砕かれた瓶が、俺の足に降り注がれると、まるで修復の魔法の如く、俺の足にランドリーに置かれた〈マラリアントシューズ〉を履かせた。
「そして〈マラリアントシューズ〉の特殊効果!」
膝立ちになりながら靴の把手を倒し、最後の【飾血】を靴に与える。
息を吹き返した靴が色を取り戻したのを合図に、俺はフェズに向かって駆け出し、思いっきり飛び上がった。
「相手の総APを吸収し、その分俺のAPへと加算させる!」
沈みかける茜色の夕日を背に飛翔している間に、〈マラリアントシューズ〉の靴底から、スパイクよりもびっしりと立ち並んだ無数の針が生える。
宙に浮かんだまま身体を思いっきり屈伸させ、その瞬発に任せて武器を履かせた足を伸ばす。
落下する勢いも含めて、渾身の跳び蹴りがフェズへと向けられる。
相手から直接攻撃がダイブされようとしているのに慌てる素振りを見せなかったフェズだが、ここにきて両腕を交差させて守りに入る。
あの靴底を受け止めるということは、効果の適用を許すことを意味していた。
蓮丈院遊月 AP2000 VS フェズ・ホビルク AP-1000
相互終宣。
突き進む遊月の足と受け止めるフェズの腕。
両者の身体が密着した時点で、やっと勝負がついた。
女児向けアニメの使い捨て「悪役令嬢」になったが、マッハで寿命がヤバい カスケ山脈 @Cascade-Range
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