4-12 ほんのわずかに感じた一縷の違和感

蓮丈院遊月 AP400 VS フェズ・ホビルク AP-1100



「私のターン」



 プレイヤー本体に傷が与えられ、さらに切り札を失い、素肌のみを茜空の下に晒す羽目になったフェズだが、表情は相変わらず。


 羞恥で赤らめることもなく、何もかもが丸出しのままだが、流石の俺も手札にしか注目できない。



「手札から〈レインボーフェザー ピクスレインボーシューズ〉をコーデ」



 相手もまた靴のみを場に出す。


 しかし、肝心のAPは450と並の数値だ。



「このカードがコーデされたとき、ランドリーに七色のコスチュームが揃っている場合、一度だけ手札からアクシデントを発動できる」



 やはり召喚時の効果が付随していたか。


 もうどんなインチキめいた効果が来ても驚かないが、気になるのは奴がどんなカードを握っているのかに警戒してしまう。



「手札から発動させるアクシデントは〈雨粒に差し込む陽光〉。このカードは、ランドリーにレアリティGRのレインボーフェザーブランドのコスチュームがあり、七色のコスチュームも揃っている場合、そのレアリティGRのコスチュームをランドリーから追加でコーデさせる」


「な、なんだと⁉」



 あれほど苦労して破壊できたのに。


 シューズ一枚を場に出されただけで、あんなにあっさりと復活を許してしまった。


 美しくも恐ろしく、そして今は忌々しささえ覚えてしまうこの世界最強のワンピース〈ファンタジアレインボーワンピ〉。


 それが再び、俺の前で神々しく威光を放つ。



「そして、この効果で蘇ったコスチュームは、ランドリーに置かれたコスチュームを任意の数だけ取り除くことで、一枚につき300ポイントアップさせる」



 フェズがゲームから追放したカードは、全部で七枚。


 しめて2100ポイントもアップされるが、ステージ上に置かれたコスチュームの数と合算すると普通にバーストしてしまう。


 だが、あのとき俺が総APに4桁のマイナスを与えたことで、その損失分を無理矢理補填する。


 その結果、フェズの総APは――



「ア、AP2850だと……ッ」



 遂にフェズが俺よりも先に、限界の数歩手前まであげてきた。


 しかも、フェズが俺よりも高くAPを上げたことで、効果が復活している〈ファンタジアレインボーワンピ〉は、もう俺の手で破壊されることはない。



「あなたが最後のドローフェイズで引くのは、ミュージックカード〈アクセサリーチェンジ〉」



 ここで、フェズが今になって次のターンに俺の引き当てるカードを予言した。



「私は最後にカードを伏せる。そしてスタンバイ」



 今度こそ、終わりを告げるか。


 いや、終わらせられない理由がない。


 限界ギリギリまでAPを上げ、無敵の防御の陣を敷き、ついでに罠まで伏せられては、もう相手に有無をいわせない。


 だが冷静に考えれば、そこまで上げたということは逆に相手に機会を与える諸刃の剣状態になっている状況でもあった。


 このゲームがチキンレースに例えられる理由は、やはりAPを3000も越えたら自動的に敗北してしまうバーストが存在すること。


 それができる唯一のカードが、さっきデッキの中に戻した〈エヴォルナイトゲールワンピ〉。


 こいつを、破壊した〈イクソディアシューズ〉の効果でランドリーに送れば、ここまでずっと手札の中で温存させていたカードで復活させることができる。


 そうすれば後は、【飾血】して200ポイントを相手にぶつければ逆転できる。


 しかも、奴はあらかじめ次に引くカードを〈アクセサリーチェンジ〉だと言った。


 あのカードは手札のアクセサリーカードをランドリーに捨てることで、デッキから任意のアクセサリーを手札に加えることができる交換効果を持っている。


 あれを発動させれば余った通常コーデを使って、あらかじめ破壊から免れる効果を持ったアクセサリーをマテリアルとして持たせておけば。



「ターンを迎える前に俺は……」



 あらかじめ伏せておいた〈衣装破砕〉を使い、〈イクソディアシューズ〉を破壊してカードを引く作戦を結構しようとした時、俺はある違和感を思い出した。


 奴が予想通りスタンバイを宣言したことで、危うく聞き逃すところだった。


 いや、正しくは察し逃すといったほうが正しいか。


 いつもならフェズが次のドローを予言するとき、タイミングは俺のドローフェイズ開始と同時に伝えるはず。


 それがなぜ、自分がターンを終わらせるタイミングであらかじめ予言することにしたのだろう。


 その真意がつかめない。


 もしかしたら……このゲーム事態が全てフェズ・ホビルクのシナリオ通りなのかもしれない。


 奴は俺のドローするカードだけじゃない。


 そのターンで何を仕掛けてくるのかもあらかじめ判った上で勝負を挑んでいる可能性がある。


 どうりで俺が繰り出した戦略が上手く利用されている感じがすると思ったよ。


 情報を知りたい資格を勝ち取れと言っておきながら、挑戦者を掌で踊らすとは質が悪い。


 だが、本当に次のドローフェイズで引くのは宣言したカードになるのだろうか。


 もしかしたら、今この瞬間に俺が訝しんで、タイミングをずらそうとしているものフェズの読み通りだとしたら。


 少し原点に戻って考える。


 そもそも、俺がフェズ・ホビルクに負けることで何か利点があるのだろうか。


 あれだけの壮絶な出来レースをしておきながら、俺に勝つことで得られるフェズの望みは。


 彼女は勝負をする前に切り出した。


 知りたければ資格を勝ち取れと。


 はじめから本気で勝ちをとらせようとしているわけではない。


 自分に有利な空間に押し込み、ついでに積み込みしているかのように布陣を整える。


 一つ気になるのは、最初から全てが仕組まれているなら、何故わざわざ逐一俺の引くカードを予言する必要があるのだろう。


 あんなに先読み能力をひけらかしては、いずれ出来レースだとバレてしまう可能性もあったのに。


 威圧を与えてミスを誘発させる心理戦にしても無理がありすぎる。


 逆に言えば、そのせいで盤面が崩れる可能性だってあるはずだ。


 それに何故、最後という場面で予言するタイミングをずらしたのか、その理由が見えない。


 もしかしたら、始めからこれが出来レースであることをわざと気づかせる為だとしたら。


 これが本当に、俺にフェズが持ちうる情報を知る資格が得られる試練だと本気でいうのなら、今の予言は恐らく……。



 ――俺は、自分の直感を信じる。



「俺のターン!」



蓮丈院遊月 AP200 VS フェズ・ホビルク AP2850

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る