4-11 極彩色の翼 VS 無色の羽
蓮丈院遊月 AP-100 VS フェズ・ホビルク AP1100
「俺のターン!」
「次に引くのはミュージックカード〈乙女のワンポイントアクセント〉」
「ドロー!」
結果はともあれ、作戦通りの数値にはならなかったが、フェズ相手に四桁の損失を与えたのはかなりでかい。
おまけに相手の効果によって手札が十二分にたまっている。
こうなれば全部突貫工事だ。
全て使い切る気でいないと、今度こそ押し負けてしまう。
「臆せず攻める! リバースカードオープン! 〈バニラエッセンスの洗剤〉!」
ふざけた名前のカードだが、遊月が厳選してデッキに入れるほど侮れない効果を持っている優秀なノーマルコスチューム専用の蘇生札だ。
「蘇れ! 〈エヴォルスワンワンピ〉!」
二度も戦場に呼び出されたエースカードは、依然色のないノーマルコスチューム。
しかし、こいつの元の色は赤。
このまま【飾血】をしたところで、相手のBGMカードの影響で効果が発動できない。
だが何の因果か、俺の手札にはこの状況に相応しいカードが開幕から握られていた。
「立て続けにミュージック発動! 〈テメェらの血は何色だ!〉」
歌のカードだから、さぞかしハードなメタルだろう題名をつけられたこのカード。
「このカードは、【飾血】が必要なコスチュームに任意の色を与える!」
表向きに存在しているBGMカードの影響は色によって左右される。
ならば、指定された色でなければロックはされない。
はじめは使いどころが全然思い浮かばなかったが、今なら十分に救いの一手として貢献していた。
「〈エヴォルスワンワンピ〉を紫色に変更! そして色が与えられた〈エヴォルスワンワンピ〉はマジカルコスチュームとなる!」
極彩色の煌翼を背に生やすフェズ・ホビルクというラスボスを前に、熱気と陽炎によって生み出された透明の翼を背に生やして対峙する序盤の雑魚こと蓮丈院遊月。
普段は赤だったのが、灰色から紫色へと変わる様はなんとも珍しい姿だ。
だが、今は大人しく鑑賞している場合じゃない。
「さらに! ミュージックカード〈乙女のワンポイントアクセント〉を発動! アクセサリーカードを手札から追加でマテリアルコーデさせる!」
いくら色を変えて無効化の制限の網をくぐり抜けても、このコスチュームには燃やす燃料がなければ話にならない。
「呼び出すのはこいつだ! アクセサリー〈ブラッデルセン タンクルハートポーチ〉!」
手札から直接ワンピに着せられた――正確には肩に下げられたのは真っ赤なビニールポーチ。
いや、赤くしているのは、その中を並々と満たしている謎の真っ赤な液体だった。
「そして、このポーチを破壊して〈エヴォルスワンワンピ〉の効果を発動する!」
肩に下げたポーチを片手で持ち上げ、生卵の如く手の中で握り潰す。
堅く結んだ指の隙間から漏れたのは黄身や白身ではないが、血のように真っ赤な液体が滝のように溢れ出た。
「その前に、破壊されたポーチの効果を割り込んで発動させる」
素肌の全部が染まったまま、ビシャビシャに滴る手をフェズに向かって大きく降る。
有り余るほど掌に溜まった液体は、水球となってフェズの虹色の衣装に赤い汚れをつける。
ついでに、足に履かせたシューズも同様に。
「〈タンクルハートポーチ〉が破壊されたとき、相手コスチュームを全て赤色に変える!」
初めは布地に水滴が徐々に染み込む程度だったが、それを皮切りにラスボスの切り札である〈ファンタジアレインボーワンピ〉が、赤一色に染めあがる。
「そして、貴様が発動させ続けた〈スポットカラーソウル〉の影響で、赤色となった〈ファンタジアレインボーワンピ〉の効果は無効化される!」
これで主人公を苦しめるほど無敵を誇っていたラスボスの切り札〈ファンタジアレインボーワンピ〉は、自ら場に出したBGMカードの影響で効果そのものを封じられた。
いくら城塞の如く堅い防御能力を秘めていても、それさえ封じれば後はただの衣装だ。
「今だ! 〈エヴォルスワンワンピ〉で〈ファンタジアレインボーワンピ〉を破壊!」
血の様な染料を燃料に、再度俺の手に炎が滾る。
切り札が役立たずになってもなお、無表情直立不動で居続けるフェズに向けて、俺は正拳突きの勢いに任せて火の玉を飛ばした。
「……っ」
今までなにが迫っても棒立ちでいたフェズが、相変わらずの無表情だが、ここに来て両腕を交差させて身を守り始めた。
なんとか火球が見事衝突したことで、忌まわしきラスボスの切り札があっさりと消し炭になった。
せめて火傷の一つでもつけたかったが、ゲーム用の効果映像だから仕方がない。
「よしッ! 〈ファンタジアレインボーワンピ〉を撃破! このまま押し切る!」
「〈スポットカラーソウル〉の効果。自分ステージ上にコスチュームがない場合、ミュージック・アクシデントカードゾーンに置かれたコスチュームを、追加コーデさせることができる」
一枚の壁となって聳えるミュージックカードの隣に並ぶコスチュームカードが、裸体となったフェズへと一気に接近し、そのままイラスト通りの赤い衣服となって着せられた。
同時に、色による封印が解除される。
「この追加コーデに反応して、アクシデント発生〈激流の洗濯〉!」
「そのカードは⁉」
数少ない汎用カードの一枚〈激流の洗濯〉は、どちらかが通常コーデ・追加コーデ・マテリアルに対して地雷の如く反応する一斉除去のカード。
表を挙げたそれが発動を宣言するように光り始めたとき、イラストを入り口に文字通り大量の水が白い飛沫を纏って勢いよく流れ出る。
風呂場のカランよりも勢いよく出た水流は、一気にこの一帯を水没させる。
水の冷たさや息苦しさを感じる頃には、既に全てを洗い流す役目を終えた洪水は、綺麗さっぱりなくなった。
ついでに互いの衣装ごと。
これでまた、互いの衣装はゼロ。
ただし、元のAPは既にマイナスをぶっちぎった俺よりもフェズのほうが低いままだ。
「チィ……だが俺はまだ通常コーデを残している! 俺は〈ブラッデルセン イクソディアシューズ〉をコーデする!」
もしもの為の保険にしていたわけだが、早速使う羽目になるとは。
全裸に土気色のブーツなんてあられもない姿を敵前に晒しているが、今は少しでもAPを高めなければ。
「俺はカードを一枚準備して、ターンチェンジだ!」
俺が伏せたカードは最後の手段にして単純かつ強力なアクシデント〈衣装破砕〉。
敵味方かまわず、ステージ上のカードを問答無用で破壊することができる。
だが、こいつで名前の通り破壊するのは相手の衣装じゃない。
どうせ相手はバックグラウンド・ミュージックを含めて、未だに強固な体制を敷いてくるため、逆に単純な効果ほどはじかれるのが目に見える。
使い道は、俺自身。
俺が履いている〈イクソディアシューズ〉は、破壊されたときデッキから【飾血】できるコスチュームをランドリーに送り、ついでに手札を一枚ドローできる。
下手に場を荒らすよりも、こちらの武器を増やす方が、この激戦で唯一のライフラインとなる。
蓮丈院遊月 AP400 VS フェズ・ホビルク AP-1100
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