4-6 戦略の全てが見通された不利な対決

「俺のターン――」


「次に引くカードはアクセサリー〈ギフトビスケットバッジ〉」


「――ッ! ドロー!」



 今度は引ききる紙一重のタイミングで、カードを言い当てる。


 遅れて俺も目を通すが、やはり宣告通りのカードだった。


 本来は非公開情報のはずの手札が全て読まれている上に、鉄壁に近い防御姿勢。


 完全に〈エヴォルスワンワンピ〉の破壊効果がいらない期待をされている。


 手の内だけなら……あるいは。



「俺は【飾血】を行い、〈エヴォルスワンワンピ〉を覚醒させる!」



 襟に立つ把手を倒し、首筋に針を突き立てさせる。


 一瞬のこそばゆさが過ぎった直後、血という俺のアピールポイントを吸った〈エヴォルスワンワンピ〉が熱気を帯びて、魔法の力を得る。



「さらに俺はアクセサリーカード〈ワイルドチャーム トワイライトホーンヘアアクセ〉をマテリアルコーデ!」



 続けて通常のコーデとして飾りをつけたのは、紫色のラメが輝く一角獣の角を模したアクセサリーカード。



「〈トワイライトホーンヘアアクセ〉のAPは150。だが、トップスにマテリアルとしてコーデされた場合、ボーナスとして倍になる!」



 もっとも、マテリアルとして場にでても、すぐ効果の燃料として退場を強いられる。


 地味な増数効果など初めから当てにしていない。



「さらに、そのマテリアルを取り除くことで、〈エヴォルスワンワンピ〉の特殊効果を発動!」



 毟り取った聖獣を握り潰し、燃料を得た俺の手が真っ赤に燃える。


 もはやこいつの効果は俺にとって、必殺の常套手段だ。



「狙いは貴様の〈スプラッシュキュートワンピ〉だ! ご退場を願おう!」



 狙いを定め、砲弾の如く炎弾を撃ち放つ。


 さあ、妨害できるなら妨害して見せろ。


 俺は攻撃する期待に対して、その攻撃を妨害させる期待で返そうとした。


 そのはずだが、フェズはただ直立するだけで、すんなりと火の弾を受け入れた。 



「なんだと?」



 狙えと言わんばかりの弱小カードを出しておきながら、フェズは二枚も伏せていた札を全く発動させずに突っ立っていた。


 服が少しずつ塵となって崩れてゆく中、陶器の如く白い素肌を晒しながらも、恐ろしいほどの無表情で見つめ返すフェズ。


 まったく読めない顔をしている奴ほど、恐ろしいものはない。



「チィ……。〈トワイライトホーンヘアアクセ〉は、ランドリーに送られたとき、デッキの下に戻る」



 不意に出てくる舌打ち。状況は俺が圧倒的に有利なのに、どうにも素直に喜べる状況じゃない。


 何しろ、相手の手札を全て網羅している上に、まだ引いていないドローカードすら言い当てる相手ならば。



「そしてアクシデント発生! 〈桶底の一枚布〉!」



 相手が発動させないなら、こちらが発動させるまで。



「〈桶底の一枚布〉は、【飾血】衣装が効果で相手コスチュームを破壊した時、ボーナスとしてデッキから【飾血】できるコスチュームを、色の付いた状態でステージ上に追加コーデできる」



 手札の内や引くカードが読まれているなら、今からデッキから出現するカードまでは読みとれまい。



「呼び出すのはこいつだ! 〈ブラッデルセン マラリアントシューズ〉!」



 俺の足に新しく着せられたのは、黒と白のストライプ模様と同じ色の小さいリボンがふんだんに飾られたブーツ。



「既にマジカルコスチュームとなった〈マラリアントシューズ〉は、一度だけ相手の総APを350ポイント吸収して、自分の総APをその分アップさせる!」



 着主の言葉を合図に、靴に飾られた黒と白のリボンが羽虫の如く足から巣立っていく。


 靴とリボンは一本の鋲で繋がっていたのか、それを吸い口として構える。


 標的は着主と敵対している相手――フェズ・ホビルクへと向けて。



「アクシデント発生、〈トリプルアクセル〉」



 迫り来るリボンの羽虫の群を前に、フェズは淡々と寝かせていたカードを起こす。



「相手が総APに干渉する効果を発動させた時、デッキからレアリティNのダブルカテゴリーコスチュームを3枚までランドリーに送ることで、その効果を無効にする」


「なに⁉ 吸収効果に反応するアクシデントカードだと⁉」



 フェズが伏せていたのは、破壊からコスチュームを守る効果ではなく、APの数値に干渉する側の防御効果。



「私はデッキから〈スプラッシュポップワンピ〉、〈スプラッシュクールワンピ〉、〈スプラッシュフェミニンワンピ〉をランドリーに送り、〈マラリアントシューズ〉の効果を無効にする」



 デッキから抜き取った三枚の衣装をコストに、シャボン玉に似た薄い虹色の幕がフェズの前に張られ、リボンの羽虫達を全て弾き返した。


 まさか、俺が次に出すカードまで読んだ上で、あのアクシデントを伏せていたというのか。



「クソッ、俺はこれでターンチェンジだ!」



蓮丈院 AP1750 VS フェズ・ホビルク AP0

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る