3-3 互いに全てを駆けさせられた実戦経験

「アイドルとはいえ、やる場所を選ばないってのは節操がないなぁ」


「出会って五秒で口説いてくるあんたには言われたくないんだけど」



 生涯で二度目にして、訓練ではない実戦のマジアイステージに選ばれたのは、ダンス練習用のフロア。


 やや狭めの体育館だと思えば想像はしやすいだろう。


 艶やかながら傷だらけの木床に、どうやって取り替えているのだろうかといつも疑問に思うくらい高い位置につり下げられた水銀灯。


 運動靴のにおいだろうか、擦れたゴムのにおいまでしてくるところまで、ますます学生時代に世話になった運動場が思い出される。



「暢気に見慣れた施設を見回してていいの? この勝負であんたが必死で守ってきたトップの座が没収されるかもしれないってのに」



 ぼんやりと本当に施設見学に感心している間に、準備まで終わらせてから煽る美澤マイリーの手には個人専用のCOMPなのか、レリーフから投影板に至るまでマイリーの色に合わせた黄色いタイプが握られていた。


 なんでトップと持て囃された俺の方は、全受講生と同じ汎用タイプなんだろう。


 結局、こんかいも備品のマイク型COMPを借りてデッキの準備を整えた。



「価値の重さすら記憶と共に忘れた俺に、そんな肩書きなど猫に小判。そんなことより、貴様が負けたら俺とデートしてもらうぞ!」


「い、いいけど……うん、こっちは全てを出し切る覚悟で来たんだ。負けたら何でもあげちゃうから!」


「何でもだと? フフフ、俄然やる気が出てきた」



 合意とも聞き取れたその言葉を聞いた瞬間、俺の心臓に熱湯かと思うほど熱された血液が激しく流れ、心筋を焼き始めた。


 互いに同年代で思春期、そして合意の上なら全て合法。


 品の無い天性の異能力や特性よりも遙かに強い武器と味方を手に入れている俺は、この生涯で初めて真面目に闘気を燃やした。



「す、すごい熱気! あんなに闘志を燃やしている遊月さん初めてみました!」


「燃やしてるのは闘志じゃないな、煩悩だよ」



 立ち会いさせたマーサとセイラに見守られながら、デッキを差し込んむことでCOMPが起動し、互いに対戦者を察知してモードを切り替えさせる。


 思った以上に賢いマイクは、スリットの中で高速シャッフルをするなど着実に準備を整えてゆく。



「かけ声はちゃんといえる?」


「バカにするな」



 ぴたりとシャッフルが止まったデッキの上から五枚のカードを引き、プレイヤー側も勝負に臨む。



「「アイドル――オンステージ」」

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