離脱
耐えきれない。耐えきれない。耐えきれない。豆腐メンタルと言われれば、激柔豆腐だ。触ればすぐ崩れる。
いやもはや、今は豆乳だろう。俺の心は完全にこの会社で働くことを拒絶した。
無責任、いや無責任ではあるが、こんな上司の下で働いていたなんて思わなかった。
遠慮気味につけている残業時間に対して、最初はネチネチと文句を言ってくるかと思えば、今度は人格すら否定してくる。
それも大人数の前で笑い者にするようだ。
この数ヶ月ずっと耐え続けていたが、もう限界だ。仕事ができないと言われるのは仕方ないが、人格や外見にまで話が及べば別だ。
俺の死に物狂いの5年。
仕事のせいでこの歳でも彼女なんていたことないんだぞ。合コンだって行ってみたい。
不純な理由が出てしまったが、俺の手には紙が握られている。
「課長。これをお願いします」
課長はその紙の標題を見て、一瞬目を丸くしたが、ニコリと笑うとそれを受け取った。
「大変お世話になりました。後1ヶ月になりますが、よろしくお願いします」
そうは言ったものの、溜まりに溜まった有休もある。だが、引継はしていかなければ、俺の持っている業務が立ち行かなくなるだろう。
俺のいる部署の皆ほとんど、俺を毛嫌いするような扱いになっていたが、隣の席のJさんだけは優しく話してくれた。この子との引継する時間だけは癒しであった。
普段あまり話はした事はないのだが、甘く香る匂いに、艶めく唇、スカートの裾から見える腿、全てがどストライクな気がする。
と、邪念を払いつつも、俺の引継は順調に終わり、残りの1週間は有休を消費する事ができそうだ。
*
自分の間借りしているアパートの一室で、PCをつける。
ハロワにも行かないとだが、1週間はまったりしようと思ったのだ。
いつの間にか吸えるようになっていた紙タバコに火をつける。人間慣れだな。
そして、趣味だった小説投稿サイトを久々に開く。
2年も経っていると、少し流行が変わってるなと思いつつも異世界ものを読み始める。
スローライフ物も多いなと思った時にふと数ヶ月前に見た記事を思い出した。
検索エンジンで異世界転生じゃなく移住で検索キーワードを設定する。
いろいろな地域で行われているようだが、東北にある一つの島のホームページに目がいく。
南の島というわけでもないが、何故だろう。名前も知らなかったこの島に興味が湧いた。
俺はスマホを開き、ホームページにある問い合わせ先に電話をかけていた。
『はいこちら、
若い女性の声が電話の先から聞こえてくる。
「あの移住体験ができるってホームページで見たんですけど……」
『移住体験ご希望の方ですね。この度は
定型化されていると思われる説明を聞かされ、俺は決心をする。いや、電話する時から決めていた。
「あの、俺移住体験します!」
即答で電話越しの女性に伝えた。
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