会社辞めて移住体験〜異世界のような島で気を抜くと獣に襲われます〜
@kou2015
プロローグ
社畜
PCに齧り付く。3ヶ月前に辞めたW氏の引継書を手元に抱えている。
ペーパーレス化? そんなもの関係ない。俺は紙派だ。最大限に資源を利用してやる。
周りを見渡せば、フロアには誰一人残っていない。さっき他の部署の人間も帰っていった。
今は00:30を過ぎたところだ。
窓の外のビルはまばらに電気が付いている階があり、まだ俺と同じように働いている奴がいると思えるだけマシだ。
PCのファンが回り、動きが鈍くなってきたところで休憩を入れる。眼鏡の縁を軽く上げ、定位置に戻して席を立つ。
喫煙所に入り、加熱式タバコの電源を入れ、タバコを差す。
俺は紙タバコから加熱式タバコに変えた派だ。
少し吸えば、苦味が強くなった気がする。そういえば、掃除したのはいつの事だったか……。
机に戻り、ゴミ箱を抱え、掃除を始める。専用の掃除用具がないため、ガンガンガンガンとゴミ箱の縁にホルダーを叩きつけ、息を吹きかける。
なかなかかすが取れない事に苛立ち、ゴミ箱をあさり、夕食に食ったコンビニ弁当についてきた爪楊枝を取り出し、かすを掻き出す。
ポキ……嫌な予感。
「あっ……折れた」
そして、心も折れた。
同じ過ちを二度起こしていると言うのに、俺は成長しないらしい。加熱式タバコのタバコを差す芯の部分を折ってしまったのだ。
PCの電源を落とし、フロアの電気を消し、背広の上からカーキ色のジャケットを羽織り愛用の黒のリュックを背負い、退社する。
薄暗い廊下を歩きながら考える。
ブラックだ。絶対ブラックだ。
事前に課長に残業申請を行い、後から実績時間を記入するが、なんとなく周りの人も実績通りの時間でなんて記入していないのが分かっているせいか、控えめに書いてしまう。
いや、俺が小心者のせいか……。残業時間通りの金なんてもらった事がない。
3ヶ月前に辞めたW氏のしわ寄せが全てこの俺にかかってきている。仕事量が増える事が分かっているのに、誰一人として手伝ってくれない。
若いから大丈夫。いや俺はもう27だ。周りから比べれば若いかも知れないが、休日もなく働き詰めであれば、心も荒んでくる。
「辞めてやろうかな……」
そうだ。今日は残業時間をきっちり実績通り書いておこう。
そう決め、残業申請書を所定の場所に置く。
これだけでも少しの満足感が得られた。
*
コンビニに寄り電子タバコのホルダーではなく、久しぶりに紙タバコを購入する。
「まじぃ」
吸うもんもあまり吸わずに灰皿にグリグリと押しつけ、火を消す。
ニコチンが満たされないまま、腹を満たすため夜食を食いにいく。
24時間営業の牛丼屋だ。
酒の臭いがする者もいれば、同士と思われるスーツ姿のおっさんもいる。
飯が出てくるまでの間スマホを手にする。広告欄を見ていると、過疎地域での移住者募集のページが目に入る。
「へー。こんなのもやってたんだ。田舎でスローライフってのもいいな」
軽く目を通していると、大盛りの牛丼が目の前に置かれる。
紅生姜をたっぷりとかけ、かきこむ。
肉の下には米、米、米。それは当然のなのだが、その時はよーく、マジマジとその米を見ていた。
「田舎で米作りか……自営業ってのも悪くない」
この時俺は数ヶ月後の自分がまさか田舎暮らしを始めるとは思っても見なかった。
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