また会いましょう。

営為つむぐ

[起] 切欠

中盤辺り 美和ちゃん(済)

 女二人が集まる当然なのかもしれないが、話は自然、浮ついた内容のものとなった。

  「ねぇ、ナルちゃんってさ、

   史輝しき君と付き合ってるの?」

  「えっ、いや、あの、その、えーっと…」

 突然の美和ちゃんの問い掛けに私は戸惑いを隠しきれず、視線を泳がせ、しどろもどろになりながらも、辛うじて返答した。

  「んーん、ただの友達だよ。」

 返答しながら、私は自分の言葉に引っ掛かりを覚えていた。もしかすると、彼は"ただの同級生"と答えるかもしれない。

  「彼、ちょっと変な人でしょ?」

  「うん。でも優しいよ。」

 そう言って、私は大学受験の時に見たバスでの出来事を彼女に披露した。

  「うん。彼、ホントはすごく優しいんだ

  と思うんだけど、何ていうか…

  その、台無しっていうのかな?」

 私は、一瞬 彼女が何を言っているのか分からなかった。彼女は 続けて言葉を紡いだ。

  「私達が高三の時ね。

  生徒会の後輩が 彼に重い荷物を運ぶの

  を手伝ってもらってるのを見てさ、

  その子、女の子で結構 可愛いから

  ちょっと気になって、

  後で、そのに尋ねたことが

  あったんだけど…」

 彼女はこの時、何を気にしたのか語らなかった。もしかすると、そのことに彼女自身も気付いていなかったのかもしれない。私はと言えば、なぜ今 ここで、彼女が 彼の話を展開させているのか気にも留めていなかった。

  「そしたらさ、その娘と彼、

  全然 面識なくて、

  その娘がお礼 言ったら

  "僕のこと、とっても素敵って

  みんなに宣伝しとって"

  って言ったんだって。」

  「あ〜〜〜」

 私には、その時の情景が まざまざと目に浮かぶようであった。恐らく、それは彼一流の照れ隠しだったが、まぁ、だからお前 誰だよって話だ。

 とは言え、彼のことをさも可笑しそうに語る彼女を見て、私はこの時、彼をフォローする使命感のようなものを感じ、とっさにそれを発動させた。

  「でも、それは その子が負担に感じない

  ようにわざと言ったんじゃないかな?

  彼、不器用で、分かりづらいけど、

  実際、あれで助けられてる人も

  結構いると思うし。」

  「例えば、それは ナルちゃんとか?」

  「・・うッ。ふっ、不本意ながら、

  否定できないかも…」 

  「アハハ。ごめんごめん。

  そうだよね。うん。私もそう思う。」

 彼女は私の意図を察したのか、赤面する私を横目にちょっと笑った後、頷き、そこで言葉を区切った。

・・そうして、少し沈黙した後、彼女は私から一旦 顔を背け、再び前を向き直し、ちょっと遠くを見るようにして、おもむろにポツリと呟いた。

  「私も高一の時、助けられたっけ…」

 私は、彼女の横顔を見てハッとした。

-それは 私達が高校一年生の時の出来事。

彼女は、ルックスがよく運動神経抜群で、

成績も良かった。その上、性格も良いときたものだから、嫉妬の対象になりやすかった。

 それは、5月末頃から徐々に形を成し始め、彼女は根も葉もない中傷や陰口に苦しめられることになる。同じ部活ではあったものの、クラスが違う私には話を聞くことぐらいしかできず、私達の通った高校は進学校で暴力沙汰などはなかったとはいえ、それから 彼女は一年近く辛い思いをして過ごすこととなった。

 一年生が終わり、私達が二年生に進級した頃に、それは自然と消滅したが、何事もなく 話しかけてくる同級生達と接して、彼女は何を思ったことだろうか?

 確か その頃、クラスで一人だけ、慰めるでもなく、同情するでもなく、ただ何の他意もなく接する男性がいた、ということを彼女に聞いた覚えがある。

 単に何もしなかった、そう思えないこともない。だが、人によって 場合によって、処方箋が異なるのは言うまでもないことである。そして、彼女がその時 真に欲していたのは、"普通に接して欲しい"、ただ それだけのことだった。

・・もしかして、それが彼だったのか?

話の流れからしても、彼の性格からしても、それはいかにもありそうな気がした。

 彼女が 私と彼の関係を気にする発言をしたとき、私は彼女の表情を見なかったが、この憶測が事実だったとすれば、ひょっとすると-

 そして、同時に私は、あることを思い出していた。そういえば、彼も彼女を気にしていたっけ…

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