第6話
待ちに待ったデートの日。先輩と駅で待ち合わせをした。ついつい30分も前に着いてしまい、手持ち無沙汰でスマホをいじっていると、大学生くらいの男に声をかけられた。
「ねぇ君、今ひとり?」
「一人に見えないのなら眼科かお祓いをしに行った方がいいかと。」
「じゃ、ひとりだね!俺とそこのカフェにでもいかない?」
「お断りします。」
「君すっごい可愛いよね。一目惚れしちゃったんだ。」
「そうですか。」
「えー、つれないなぁ。彼氏でも待ってるの?」
未だに粘る男に嫌気がさしたが先輩が来るまで後20分、と心を落ち着けた。
「ええそうです。」
「さっきから見てたけど、こんなに可愛い子を待たせる最低な奴より俺の方がいいでしょ?」
「どこがだよ。」
おっといけない、自制心。落ち着け私。
「君さ、そいつのどこが好きなの?」
「存在すべてですけど何か。」
「え、あ〜。一番は?」
おや、質問してきたけど方向性なんかおかしくない?
まぁいいけど。
「顔ですね。」
「………へぇ。」
「特に笑った顔ですね。好きなものを見たときの。思わずって感じで、その後に照れたように顔を隠すところ込みで。」
「え、あ、はい。」
「あと小さな子と話すときに目線を合わせてあげるところとかいつもは大人っぽいのにご友人の前ではちょっと子供っぽくなるところとかあと」
「もういいです。ごめんなさい。とてもいたたまれないので。」
「あなたが聞いてきたんじゃないですか。」
「いやー、だって気になって……」
いやなんでだよ。なんであったこともない男について気になるんだ。
そんな私の疑問に答えるように、この数日ですっかり聞き慣れた人の声がした。
「兄さん、なにしてるの……」
「おはようございます先輩、今日はいい天気ですね、デート日和です。その服もとても似合っています、髪を結われている姿は初めて見ましたすごくかっこいいです。」
「うん、おはよ。今日も通常運転だね。」
先輩の姿にうっとりとしながらも挨拶をしたら苦笑しながらも返してくれた。
ところで、さっきの先輩の言葉……。
「あの、兄さんって……?」
「あ、どうも。ハジメの兄です。」
「これは失礼しました。彼女の鈴野です。」
がっしりとお兄さんの手を握り先ほどの非礼を詫びた。
いけないいけない。ご家族に悪印象持たれるのは勘弁だ。
「ああうん。態度まるっきり変わるね……」
「どこぞのナンパ男と先輩のお兄様が同じなはずがありません。」
「そっか………すごいなこの子。」
「俺も常々思ってる。」
何がすごいというのだろう。当たり前じゃないか。
「それにしても先輩、早かったですね。まだ15分前ですよ?」
「そういう鈴野ちゃんは何分前に?」
「予定時間の30分くらい前です。」
「……いつもの様子からして早く来るんじゃないかと思って予定より早くきたんだけど、予想は当たってたみたいだ。」
「私のためにわざわざありがとうございます。お優しいですね。」
やっぱり先輩は優しい。私のことを考えて予定を早めてくれるなんて……。
「あー、じゃあ俺もう行くね。鈴野さん、今日はなんかごめんね。」
「いえ、お気になさらず。」
そういえばナンパみたいなことされていたんだった。なんか先輩のことを聞いていたのは試されていたのかもしれない、私の先輩への愛を!もっとちゃんと考えてからいえば良かった……。考えたままに言ったから。もっとこう、プレゼンするみたいに………。
「鈴野ちゃん?」
「はい、なんでしょう。」
「そろそろ行こう?早く言って損はないでしょう。」
「そうですね。先輩との初デート、楽しませてみせます。」
「え、俺を?」
「私はもう………先輩が隣にいてくれて、とても幸せですから」
事実である。そんな私の言葉に先輩は複雑そうに笑った。カッコいい。
「そこは俺の技量で楽しませたいところだね。」
そう言いながら先輩は私の腕を引き、私は先輩の腕の中。後ろの方を見ればガタイの良い大人の人たちが通っていた。先輩はそっと私の顔を上に向けさせ目を合わせる。
「言い忘れてたけど、今日の格好とても似合ってるよ。」
すっごくかわいい、そういつもの優しげな笑みで言われた私は、まだデートが始まっていないというのにもういっぱいいっぱいで、今日は心臓がいくつあっても足りないだろうなと確信してしまった。
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