第5話

これだ、と思った。これしかないとも思った。そして、これなら行ける、とも思った。


『あの大人気シロクマシリーズとコラボ!アトラクションも特別仕様!カップル限定のスイーツにはペアマグカップがついてくる!』


そんな謳い文句を見て、早速先輩のクラスまで行った。


「先輩、デートしましょう。」

「いきなりだね。」


そう言って苦笑する先輩にスマホの画面を見せる。

それを見た先輩は目を瞬かせ、どこか期待するような目を私に向けた。


「私、どうしてもこのコラボ中に行きたいんです。お願いします、先輩。一緒に行ってくれませんか?」


どうしても行きたいというように続ければ先輩はにっこりと笑ってくれた。


「可愛い彼女のためだからね。いいよ。」

「ありがとうございます!ぜひお揃いのストラップも買いましょうそしてカバンに付けましょう!」


先輩が笑ってくれたことが嬉しくて私も自然に笑顔になった。

予鈴がなり、先輩に挨拶をしてからその場を去った。



何を着て行こう、遊園地だし、動きやすいほうが良いよね。でも可愛い系がいいな、なんて私は考え、家に帰るとすぐに服を漁るのだった。









鈴野ちゃんが去った後、俺はクラスの男たちに話しかけられた。


「な、なぁ。お前彼女作ったのか……?」

「まあね」

「しかも、あの子って……一年で一番可愛いっていう子?」

「そうだね。」

「「…………嘘だろ。」」


俺狙ってたのに!とか、あの子だけは双葉の毒牙にかかるまいと思ってたのに!とか、あの子の笑顔って幻だとか言われてたのに!とか喚くのを横目に席に戻った。


「デート、どこ行くんだ?」

「ここだよ。」


そう言って、聞いてきた桜木に自分のスマホの画面を見せる。そこには鈴野ちゃんが見せてきたものと同じ内容が載っていた。実は自分でも調べていて、行きたいと思っていた場所だった。


「おい、確かこのシロクマシリーズって……」


そう、俺が集めているシリーズ。前にポロっと言ってしまったのをあの子は覚えていたらしい。しかも、さも彼女自身が行きたいかのようにクラスの前で言ってきてくれた。きっと俺と一緒に行きたいのは本当なのだろうが、実際は場所はどこでもよかったのだろう。

俺がそのシリーズを集めていることはほとんど知られていない、というか隠している。だからこそ選んだのだろう。他の人と行ったことがなければ断ることなんてできない。


「本当に“都合の良い”彼女になってくれるんだね」


ぼそりと呟いた声は友人の耳にも届かなかっただろう。


俺はさっきの彼女の笑顔を思い出し、苦笑いをした。

どうしてあそこまで俺を好きになっちゃったのかな、と思いながら。


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