星の銀貨

「アキナねえ、お母さん大好き!」


 いつもの様にそう言って母に抱きついた。


 母がにこにこと笑っている。


 アキナは母が喜んでいる顔を見るのが好きだった。


「ねえ、今日はこの本読んで」


 いつも、寝る前に本を読んでもらっていた。


 その本の中でも『星の銀貨』という物語が大好きだった。



**********************



 アキナは森の中で虚ろに母との思い出をなぞっていた。


 もう何日経ったのだろう?


 早く家に帰りたい。


 帰ったらいっぱい母に甘えて、ご飯を食べるんだ。


 オムライスがいいなぁ。


 パンケーキも食べたい。


「お腹空いた……」


 ふと、隣で横になっているハジメの声が聞こえた。


 スカートのポケットを探ると一つだけ飴玉が入っていた。


 黙って自分の口に入れてしまおうかと何度も思ったが、ハジメがいる手前、それが出来なかった。


「ハジメ君、これ、どうぞ」


 ハジメは奪うようにとって飴玉を口の中へ入れた。


 神様の祝福がありますように……


 アキナはそう心で唱えながら横になった。


 夜中、またハジメの声が聞こえた。


「寒い」


 アキナは自分の着ていた上着をハジメにかけてあげました。


 神様の祝福がありますように……


 そして再び横になりました。


 もう喉がカラカラで視界も虚ろです。


「ねえ、まだ食べ物隠してるんじゃないの?」


 ふと、ハジメの声が聞こえましたが、もう起き上がる元気はありませんでした。


 神様の祝福がありますように……


 そう考えながら目を閉じました。



*********************



 真っ暗な世界に佇むアキナの周りに銀色の星が降って来ました。


 いいえ、どんどん体が空に向かって上がっていっているのです。


「わあ! お母さん、あのお話、本当だったよ!」


 心優しい少女の周りを無数の光が包み天高く飛んでいきます。


 こうして何も知らないまま少女は神様の元へ旅立ちました。


 どうかこの子に神様の祝福がありますように。

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赤ずきんちゃんとお菓子の家 餅雅 @motimiyabi

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