R エアロック

 エアロック。気圧差のある場所に使用される、二重の扉の構造のことだ。

 異なる気圧によって片方から片方へ空気が急激に逃げることを避けるために使われる部屋で、一番わかりやすいのは宇宙ステーションで利用されているものだろう。

 真空下で行う実験のための棟と、居住ブロックの間や、船外との出入り口などに設置されている。

 また、ビルや公共施設など一般的な建物でも外気から熱や冷気、風が入らないように入口に簡素な形で設置されていたりする。

 今回はそのエアロックがでてきた話だ。




 突如、魔法金属を作ろう、と思い立ち、倉庫から鉄鉱石を持ってきてみた。

 特に術式を刻むことなく、ひたすら魔力を込めて変質させる手法を試したくなったのだ。


 通常、魔力というのはあまりものに宿ったりしない。術式で固定化させたりするほうが主流……というか効率的で、おそらく基部の街でもその方式で研究されているだろうし、将来的に出現するであろう魔法金属もその手法で作られているはずだ。

 ただ、ガチャ大陸から出土する魔法金属は数千年掛けて地脈の魔力が結晶化したものだったりするわけで。

 そういう意味では理論上は、魔力を金属にねじ込んで魔法金属にできるはずなのだ。


 なので力任せに鉄鉱石に魔力を注ぎ込んでみた。赤錆びた石が徐々に剥がれていき、つややかな赤にへと変化していく。

 そして、その内からわずかに光が溢れ……砕け散った。

 急激な変化に鉱石が耐えきれず、崩壊を起こしたのだ。

 完全に黒ずんでしまい、指先で挟めば崩れるようなものになってしまった。


 うーん、思いつきは流石にうまく行かないな。

 まあいいや。今日の分のガチャを開けよう。


 R・エアロック


 出現したのはやや小さな小屋のようなものだった。

 それには扉のようなものが両面に取り付けられており、扉で出入りが可能なようだった。


 エアロック。ようはこの2つの扉の両側の気圧差を緩和、ないし抑えて変化させないためにある構造なわけだが……それだけが出てきてもなんの意味もないだろう。

 なぜなら野ざらしに存在していても扉が触れる気圧や空気はどちらも同じだからだ。

 調整すべき空気の質が両方で全く同じなのだ。


 そして、嫌だなぁと思うのが。試しに使ったりすると影響範囲がとても広そうだなぁ、ということだ。

 もしこれで片方の空気の圧力やら温度やらをいじくり回す代物だったらどうなる?

 開放された場所で使ったら大惨事になることは間違いないだろう。


 なのでせめてどこか壁に押し付けて試したいところなのだが……機神の背中は開けた土地である。当然壁となるものは無い。

 一応兄が立てた小屋がそのままだが……。


 うむ、そうだ。兄の小屋の入り口にぴったりくっつけてみよう。

 そう思って、エアロックを押す。魔力で全身を強化すればこれぐらいのことは可能だ。そんなに重いわけでもない。

 ずりずりと地面にあとを残しながらも、小屋の入り口にピッタリと合わせられたエアロック。かみ合わせは微妙だが、思ったよりもきれいに合わさったと言うべきか。


 とりあえず中だ。

 外側の扉から、エアロックの中に入る。中はがらんとしたただの部屋があるだけでそこにはなにもない。

 中間の部屋とはそういうものではある。


 そして、奥の扉、兄の小屋へつながるように繋いだ扉を開ける。

 そこには……兄の小屋があった。当然といえば当然……いや、なにかおかしい。

 窓が木の蓋が開閉する程度のものだったはずだが、そこから入ってくるはずのかぜを感じない。窓が閉じているわけではない。開いているのに入ってきていないのだ。


 これは……空気清浄機的なあれだな?

 接続された内部の空気の性質を固定するとかそういう……。


 デカくて邪魔な割に効果が地味……。





 後日。兄がエアロックを繋いだ部屋を用意して、そこに排気ガスを流す実験をしていた。

 どれぐらい汚染されないのか、どこまで効果が及ぶのか、そしてそもそも固定化された空気とはなんなのか。

 それを調べるためにぶっこんだそうなのだが……。


 結果はと言うと、排気ガスは消滅。毒ガスも流し込んだが消滅。どうも人間が生存するのに最適な空間になるようになっているようだった。

 密閉して中で火を炊いてみても二酸化炭素が増加せず、酸素濃度も一定だったとかなんとか。


 うーん。便利なのか不便なのか。

 わからんものだ……。

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