R 保湿クリーム

 保湿クリーム。顔や手に塗って保湿を行う医薬品のことだ。

 顔や手の皮膚は乾燥などの影響で痛みやすく、そのたびに健康状態が損なわれる事がある。保湿クリームはこれを防ぐのを主な目的としているものだ。

 様々な成分によって皮膚の状態を改善し、ダメージの増加を防いでくれる。


 今回はその保湿クリームがでてきた話だ。






 うおおお! 高速筆記! 対抗呪文! 即時迎撃!

 怪人の術式構成を読解しながら、それを打ち消していく。

 一つ理解する事に、人体・精神の構造と、世界そのものの構成を剥離し術式に書き上げる手法を理解していくが、それは余技だ。

 本命は術式それそのものの反転である。


 あらゆる術式には構成された時点で、波のように打ち消し合う術式の存在可能性を帯びる。

 無論、相殺用の術式もまた構成された術式に似た影響や効果を持っていることが多いが。


 今回はサメ機巧天使シャークマシンエンジェルに魔法を接続して、遠隔で怪人の構成術式を剥がす作業を行ったのだ。

 情報量が膨大すぎて、部分部分を相殺することしか出来ない。


 一応物理的には真っ二つにしたけど術式的にはつながったままだったので解体する必要が出てきてしまった、という話でもある。

 しかも水中だからこっちも魔法が鈍る。遠隔操作だからまだマシだが。


 そうやって作業していると、怪人の反撃で操縦していたサメが落ちたので今日はヤメにする。

 ガチャを開けよう。


 R・保湿クリーム


 出現したのは保湿クリームだった。円筒のケースに収められた、透明なゲル状の物質である。

 匂いもなく、一般的な保湿クリームと同じように見える。


 クリーム……それも薬品と来たかぁ。

 これも扱いに困る代物だ。もし危険な効果があった場合、真っ先に私が被害を被る。

 そして、二次被害が発生しかねない、と。

 しかも景品なのでその被害規模も読めない。もしこれで手とかに鱗が生えたら対処しきれない。


 かといってサメ機巧天使シャークマシンエンジェルにやらせても意味がないという。

 あいつらに生体パーツは……ないからな。厳密には全身あれ生体機械らしいが、金属メインの時点で人間用の薬を使っても意味がないだろう。


 となると、だ。

 最終手段として、問題が起こった際に腕を切り落とす、という選択肢が出てくるわけだ。

 手足は魔法で再生できる。苦痛は伴うが、状態をリセットできるから可能ではある。

 ただただやりたくないだけだ。


 治るからって手足切り飛ばすやつは流石に、ねぇ? 兄ならやりかねないが、イカれていると思う。

 トカゲじゃないんだから。


 まあ、覚悟を決めたところで……保湿クリームを両手に擦り込む。片手だけにしようかと思ったが、片手だけ器用に塗る方法が思いつかなかった。

 擦り込むたびに、皮膚の質が変わっていくのがわかる。細かい産毛が抜け、すこしカサついていた皮膚は潤いを取り戻し、まるで赤子の肌のようにプルプルに……。


 ええ……。保湿クリームの効果が限界まで強化された代物ってことか。

 普通に良品!?




 後日。兄がサメ機巧天使シャークマシンエンジェルの全身に保湿クリームを擦り込んだ。

 それにより、ケイ素的なボディは保湿され……生態的なプルプル肌になってしまった。

 きわめて形容しがたいのだが、金属光沢と赤子の皮膚の柔らかさが同居している、不可解な表面材質になってしまっている。

 ただ、サメ機巧天使シャークマシンエンジェルのソリッドなボディを見慣れているからこそ違和感を覚えているだけで、それが本来のポテンシャルであるっぽいのが見て取れる。それ故に頭をかしげる。


 そんな……生き物みたいな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る