R ゲルクッション

 ゲルクッション。その名の通り、内部がゲルのシートで作られたクッションのことである。

 体圧を分散し、均一に負荷がかかるようにすることで座り過ぎによる腰や尻、太ももへのダメージを軽減することが可能となっているのだ。

 内部がハニカム状になっており通気性が高いため通常のクッションよりも蒸れにくい。


 今回はそのゲルクッションがでてきた話だ。





 クローンチンピラの製造儀式場の魔法的な技術の解析を見てみたのだが、これがまた芸術的な構成で作られた術式の数々で驚いた。

 全く異種の異能を組み込みながら、魔術式が全く絡まっていないのだ。


 通常、異なる異能を組み込むと、異能そのものが持つ固有のややこしさや異能そのものの仕様が壁となり、魔術式は非常にややこしいことになる。

 というか、科学現象を魔術式に組み込むだけでもかなりややこしいことになるのに、それから逸脱した異能を組み込むと術式自体が絡まり合って、しかもその絡まりが原因で発生するバグを解消するためにまた術式を上乗せして……という問題が発生するのだ。


 怪人の術式にはそれがない。細かい要素が既存の魔法や異能と異なる点はあるが、それらが問題を起こさず、術式の部品として機能しているのだ。

 普通は無理である。


 特に異能の移植などどのような発想で実現しているのか、読み解くことが出来ない。元の異能の式が読解不能なのもあるが、それを複数に分割して、あくまでただの情報として転写してからつなげ直すという方法が取られているのだ。分割した状態でも異能は異能。それをただの情報として維持しているのがいかれている。


 とんでもねえ術師だよ、クローンチンピラの怪人。

 こんな技術を持ってるやつがなにがしたいのかさっぱりわからん。

 これがおそらくあちらとしてはジャブとして打てる余技なのが厄介だ。


 でもまあいいか。それはそれで置いといて。

  今日の分のガチャを開けてしまおう。


 R・ゲルクッション


 出現したのは座布団だった。黒いカバーを被せられた、中身がゲルのものである。

 気がついたら世の中に普及していた代物で、出た当時は高い位置から卵を落としても割れないなどと宣伝していたような記憶がある。今は卵の上から座っても割れないとかなんとか。どう考えても無理があるだろ。


 で、そのゲルクッションなのだが……手応えがかったい。なんだこれ。みっちみちに詰まっているような感触だ。低反発のクッションでもここまで固くならないだろう。

 業務用のごついゴムとかこんな手応えだろうか。


 まあ、硬いのはいい。座布団として使う場合の問題は座り心地だろう。硬いけどじんわり沈み込んで気持ちいい座り心地の低反発素材の座布団も存在する。これだってそうである可能性があるんじゃないかと。


 そう思って、私はチェアの座面にこのゲルクッションを置いて座ってみた。

 かったい。まるで沈み込みもしない。

 わずかに反る感触はあるのだけれど、それが座り心地に影響していない。体に沿うこともない。

 10時間ぐらい座り続ければ形が変わっていい感じになるかもしれないが、それは5時間ぐらいでもとに戻りそうだし、そもそもそこまでこの硬いゲルクッションに座り続けるのは苦行でしかないだろう。


 とすると。

 こう使うのだろう。


 私は雑に木材を立て、それにゲルクッションを振り下ろした。

 その衝撃に木材は耐えきれず、粉々に砕ける。

 当然ながら、ゲルクッションにはダメージはなかった。ガワの布カバーに傷すらない。


 ゲルクッションのくせに……めちゃくちゃ頑丈……。

 つまりはまあ、防弾ゲルクッションってところかな?




 後日。兄はゲルクッションにダイラタンシー効果が発生していることを見つけた。

 ダイラタンシー効果とは、ゆっくりさわるとドロドロなのに、素早く叩くと固くなる物質に起こっている現象である。本来は液体に粒状のものが混ざったものなどで発生する現象だ。

 耐衝撃ゲルにも同様の効果があり、精密機器の輸送のための外装ケースなどで使われているらしいが……。


 こんなガッチガチに硬いクッションで起こるものなのか? と思ったが、実はゆっくりトラックぐらいのパワーを掛けると凹むが、瞬間的にはF1カーに轢かれたりしても反りすらしないぐらいにはその効果の影響があるそうだ。

 もちろん、キリや銃弾などで穴すらあかない。


 どうやって検証したんだよ。そしてなんだそのイカれた弾性は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る