R 洗濯バサミ

 洗濯バサミ。洗濯物を物干しざおに止めるために使う道具だ。

 もともとは割いた木を布が挟めるように加工したものであったが、ほとんど引っ掛けているだけであるためよく落下した。

 現在のバネ付きのものは19世紀から20世紀にかけて発明されたものである。

 また、バネが仕込まれていることから子供の興味をひくものであり、なにかと工作の材料にされがちだ。


 今回はその洗濯バサミが出てきた話だ。











 宇宙エレベーター用の電車を兄は機神に命じて製造していた。

 宇宙エレベーター内では重力方向が横向きになるため垂直ではなく直線での移動となる。

 そして……その距離は人が移動するにはあまりにも遠い。


 日本列島を北から南まで移動するのに電車を使うような話だ。

 そのためには速度を稼ぐ必要がある。

 それも人が乗っても安全な形で。


 速度を出すだけなら簡単なのだ。

 ただ爆速のロケットを用意すればいい。

 そして、それを使うと宇宙エレベーターの意味がまったくない。


 そこで機神が提案したのは磁力加速式。

 リニアモーターカーだった。

 しかも、線路を完全真空状態にすることで空気抵抗すらゼロにする代物。


 これにより想定されるステーションへの所要時間はだいたい20時間ほど。

 ものの積載量もかなりの量でも速度を維持できる。

 ……と、機神は試算している。


 こうしてみると宇宙エレベーターって無茶な計画だな……。

 ガチャ産だから車やらで物を運べるが、人間の技術で作るにはワイヤーを登るエレベーターを作る必要がある。

 一体何日掛けて持ち上げる計画なんだろうか。

 そしてそれで採算がとれる計画らしいのがすごい。

 うーむ、未来に思いを馳せる技術はやっぱどれもヤバい代物だと思ってしまうな。


 飽きたところでガチャでも回そう。


 R・洗濯バサミ


 出現したのは洗濯バサミだった。

 Aに近い形のプラスチック製のもので、その数5つ。

 そのすべてが青い素材でできている。


 洗濯バサミ……洗濯バサミか。

 開いたり閉じたりするが特に異変なし。

 というか噛み合わせが悪くて開くだけでキイキイと音を立てている。


 安っぽいなぁ。

 安っぽいあたり、普通に使う代物じゃないような気がする。


 そう思って洗濯バサミと指先でトントンと叩くと、飛んだ。

 洗濯バサミがテーブルを滑走路の如く滑っていって飛んだのだ。


 まるで小さな戦闘機だとでも言うように私の周囲を飛び回る洗濯バサミ。

 お前は戦闘機ではない。


 しかも私の些細な脳波を受け取って飛んでいるようでイメージ通り……というわけには行かないが割と操作が可能だ。

 複数の洗濯バサミが編隊を組んで飛ぶ姿は、かっこいいとか余り思わない。

 はっきり言ってシュールだ。

 本当に洗濯バサミが飛んでいるだけなんだ……。


 なんだこれ……。








 後日。兄が洗濯バサミを組み合わせて飛ばしていた。

 洗濯バサミを組み合わせて飛行機を作る遊びは子供の遊びだと言えるが、この洗濯バサミも同様に組み合わせてしまえるらしい。

 組み合わせた洗濯バサミはそれが一つの機体として空を飛び出す。

 重量バランスなどの影響も受けるようで、左右対称でないと墜落するとか、前後で重量のバランスが取れていないと墜落するとか、変な遊びごたえがある。


 で、兄はというと。

 どこからか持ってきた洗濯バサミを混在させてバカでかい洗濯バサミの戦闘機を作り上げたのだ。

 そしてそれは……明らかに元の洗濯バサミとは違うというのに飛び始めた。


 ええ……、それ混ぜて作れるの……。

 しかもその戦闘機、ミサイルと称してなにか小さい洗濯バサミを無から生成して発射しだす。

 当たると花火程度の火力が出て……危ないからこっちに飛ばしてくるな!


 思わず空手チョップを食らわせてしまった。

 強度は洗濯バサミ相応。

 対処が簡単で良かった。

 兄が変なおもちゃにしても簡単にどうにかできるな。

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