R 隠し部屋

 屋敷を作る際、図面にない部屋を作り上げることがある。

 多くの場合は何らかの問題が起こった際に身を隠したり、脱出するための抜け道として用意されているものだ。

 また館もののミステリの定番の仕掛けでもある。

 本来の部屋からずれた位置に存在する隠し部屋が殺人のトリックに利用されるのだ。

 本来存在しない部屋が存在するがゆえに全うな思考ではその正体にたどり着くことが出来ないようになっているのだ。


 今回はその隠し部屋が出現した話だ。


























 兄がビルダーで実験室の中を組み替えていた。

 ビルダーの機能によって建物であればいくらでも移動させ、作り変えることが出来るため、これまでメチャクチャな位置に出現していた建物を移動させていたのだ。


 具体的には東京地方裁判所。

 でかい、高い、入れないの三重苦である。


 これがなかなかいい位置を占拠しているのだ。

 移動させられるなら移動させたいと常々思っていたのだ。


 ビルダーが出現したためにようやく移動させられる。

 ……と思っていたのだが。

 でかすぎて認識対象外だった。


 ああー。

 まあそうなってしまうのか……。


 とりあえず場所が適当になっていた冒険者ギルドや錬金術士のアトリエ、自販機やら鍛冶屋を大通りのような配置に並べ直せただけよしとしよう。

 その間々に妙な建物を生やして遊んでいる兄も兄だが……。

 その触手がうねっているような形の家はなんなんだ。


 なお、ガチャは動かせなかった。南無。


 さてガチャを回そう。


 R・隠し部屋


 出現したのは、丸い宝石がついたアクセサリーだった。

 かんざしのような細長い棒とその先に鎖で宝石がぶら下がった作り……作り?

 いや、かんざしにするには微妙に棒が短い。

 アクセサリーかと思っていたが違うような気がしてきた。


 というか、これガチャの景品名が隠し部屋なのだ。

 部屋……?

 流石にどう見ても部屋には見えない。


 私がありえないと思いこんでいるだけでこの宝石の中に部屋があるのかもしれないと思って覗き込んでみたがそれも違うようだ。

 そもそも光を通して輝くような宝石ではなく、美しい色を持つラピスラズリのようなタイプの宝石なのだ。

 覗き込んだところで何かが見えるわけもない。


 かんざし……いや細長い棒の方が鍵にでもなっているのかと、棒で壁を突き回したり、鍵の代わりに鍵穴に突っ込んでみたりしてみたのだがそれも無反応。


 うーむ。わからん。

 そう考えて壁に背をもたれたときである。


 私の身体はバランスを崩して壁の方へと倒れ込んでしまった。

 そこに壁があるはずにも関わらずである。


 倒れた先には見知らぬ部屋、それもヨーロッパ風の部屋だった。

 小さな倉庫ほどの広さで通気孔ほどの窓しかない。


 えっ……。

 これが隠し部屋……?


























 後日。色々調べた結果、この隠し部屋を手に持った状態で壁に背をつけると、その壁が隠し部屋への入り口になることがわかった。

 外からは決して見つからず、壁としか認識されない部屋。

 そして、この隠し部屋を持つものにしか入れない部屋。


 兄に渡すわけにはいかねえ……!

 ぜってえやべえことをやらかすぞあいつ……!

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