R 出汁が出る金具

 出汁とは、旨味成分を含んだ物の煮汁のことである。

 煮出すことによってその食品が含んだ旨味を溶かし込み、スープにするのだ。

 スープにすることによってその雑味が抜け、旨味を濃縮することができる。

 様々な味付けに対応し、またこのスープで煮込むことで旨味を食材に溶け込ませることができるなど、様々な用途に利用できる。


 今回はその出汁が出る金具が出てきた話だ。

 何を言っているのかわからないと思うが、私にもよくわかっていない。



















 兄が、発掘ダンジョンを10層まで一気に踏破した。

 元気が有り余る状態になった兄は、即座に戦闘員を手配した。

 サメ機人シャークボーグは機械であるがために改造することに適正があり、細々と発掘品やガチャ景品を組み込んだ強力な個体が簡単に生み出せる兄のおもちゃなのだ。

 それを20体。

 それに加えてサメもどきを60体、宝箱に詰めた状態で。

 サメ妖精のシャチくんを3体。

 ハイサメ鬼人ハイシャークオーガの義綱さん。

 計85体のチームで、迷宮を蹂躙したと言える。


 6層より下の階層は迷宮というよりかは異界というべき状態で、森林、平原、都市、ジャングル、荒野など様々な環境に特化していて、それぞれに対応した罠やモンスターがいた、はずなのだが。

 兄はそれをサメ機人シャークボーグたちへ的確な指揮によって粉砕。

 罠は解除する手段がないからとサメもどきに踏ませて力技で解除し、モンスターはサメ機人シャークボーグの連携攻撃によって瞬殺する。


 最高にハイになった兄を止められるものはいなかった。

 いや、厳密には一体だけいたようではある。

 それは10層に出現したノーライフキングのリチャードさんだ。

 現在私の前でお茶を飲んでいる彼だが、発掘ダンジョンのスリートップの一人らしく、それに相応しいだけの力の持ち主である。

 膨大な数のスケルトンも彼の力によるものであり、アンデッドドラゴンぐらいなら同時に10体は出せるそうだ。

 それに彼いわく暗黒の魔法をいくつも使いこなせる。


 ……なんで兄勝ててるんだ?

 基本スペック差によるゴリ押ししかしていないはずなのに。


 まあいいか。

 ガチャを回しておこう。


 R・出汁が出る金具


 出現したのは、L字金具だ。

 主にL字に接続された木材を固定するために使われる。

 本棚を壁に固定するのにも使うな。

 薄くて細長い金属板を曲げたような形の金具である。


 ……出汁が出る?

 え?

 これ金具でしょ?


 なんでそうなるのか全くわからない。

 わからないやつに限ってこうやって注釈をつけてくるあたりも困る。

 わからないならわからないなりに見なかったことにしてゴミ箱に叩き込んでおけばいいからだ。

 わからないならそのまま誰にも認識されずにゴミとして消えるだけのはずなのに。


 とりあえず、煮出してみる……か?

 順調に増えているような気がするキャンプキットの中からコンロと小さな鍋を取り出し、金具と水を入れて火にかける。


 コトコトと、普通に沸騰する鍋。

 まあ金具が入っているだけで普通の水なわけだからおかしなことが起こるほうがおかしいのだが。


 しかし、金具が入っているだけでだんだん色が茶色になっていく液体は不安要素しか無い。

 マジでぇ?

 昆布煮出したときの出汁の色なんだよなこれ。

 しかしそのせいで余計得体のしれない汁になってしまった。


 本当に飲んで大丈夫なやつか……?

 少しだけ指につけて舐めてみる。


 昆布出汁だこれ……。












 後日。あの出汁は結局兄がパスタを茹でるのに使ってしまった。

 得体のしれないものでも食べてしまうのはほんとどうかと思う。

 量が足りないからって3回ぐらい煮出し直していたのだが、3回目を最後に出汁が出なくなった。

 それ以降どれだけ茹でてもお湯にしかならなくなった。

 なんかさんざん振り回されただけの結果になってしまったような気がする。

 なんだったんだ……。

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