SR スライム

 スライム。比較的近年に成立した、アメーバや細菌を元としたモンスターである。

 近年のRPGではもっぱらザコ敵としての役割が多く、ゲーム序盤で出会うことも多いモンスターだが、元をたどると物理攻撃無効だったり、武器の腐食だったり、分裂だったりとめちゃくちゃに凶悪な能力を持っている事が多いという評価に差があるモンスターでもある。


 今回はそのスライムが出た話だ。













 半端に浮いた座椅子に座ったまま完全に気の抜けた表情をしている兄だが、この様子だと明日辺りには復帰するだろう。

 この気力が元に戻った瞬間が一番大変であり、最も兄に活力が満ちた瞬間なのだ。

 活力に満ちているためにその行動力は甚大。

 大体ろくでもないことをしでかす。


 前にしでかしたのはなんだったか。

 気がついたら他県の祭りに参加していて、神輿を破壊した、だったか?

 その時はその祭りの運営に盛大に気に入られていて、盛り上がったから良しとされていたが。


 今回は発掘ダンジョンを2層ぐらい一気に攻略してしまいそうではある。

 現状、1層攻略するのにも相当な時間を掛けているからな。


 まあいいや。

 ガチャを回そう。


 SR・スライム


 出現したのは指輪のついた瓶のようなものだ。

 結晶の形をした蓋に指輪が引っかかっており、おそらくこの指輪は中身に関係があるのだろう。

 中身は……透明で粘性の高い液体が充填されており、瓶を動かさなくてもなにかうごめいている。


 なんだろう。

 スライムってことはこれ玩具なんだろうか。

 中身の液体はとろとろしていて、なんでか動いているが。


 悩んでもしょうがないか。

 瓶についた指輪……、多分意味があるので中指にはめる。

 というか、指輪を外して、指にはめないと瓶の蓋がびくともしなかったのだ。

 なんらかの認証が働いている模様。


 中身を皿に出してみる……、すると、ぷるんと中身が一塊に皿に落ちた。

 でかい信玄餅みたいなものが皿の上に出て、今もプルプルとしている。


 指輪を嵌めているからだろう。

 直感で分かる。

 このプルプルとしているものは、モンスターの方のスライムだ。


 というか、このプルプルしている感覚が触ってもいないのにわかるのだ。

 おそらく指輪の力だろう。

 感覚を共有している、というほどではない。

 棒を持ったときに先端の感覚を感じ取るようなイメージだ。

 感覚を共有しているが、自分の感覚として受け取っていないような距離感。

 

 じゃあ、こういう事もできるのか?

 そっと脳裏にスライムを動かすイメージを浮かべ、指輪を通して送り込む。

 体の中の見えない力を押し出すように。


 そのイメージに答えるようにスライムは動き出し、手前に移動して、私の膝の上に落ちた。

 べしゃっという音を立てたためにうっかり驚いて地面に落としそうになる。

 最もスライムは落ちてもダメージはないようだ。


 表面は濡れていない。ツルツルとした感覚で触っていて気持ちいい。


 で、何だこれは。

 操れるスライム?

 それだけ?













 後日。兄がスライムを超巨大にしてクッションにしていた。

 どうも大きさや粘度、そして成分まで操れることを見切った兄は、スライムをクッション代わりにした。

 手触りといい、やわらかさといい、ひんやりとしているところといい、たしかにクッションとしては極上であろう。


 成分を変えられるのなら後で返してもらおう。

 兄に渡しておくと絶対危険だ。

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