SR セーブポイント

 ゲームに置いてそれまでの攻略情報を記録することをセーブという。

 この記録を行うのに、特定の地点でしか行えないシステムが存在し、特にRPGでよく見られる。

 この特定の地点のことは一般的にセーブポイントと呼ばれる。

 主にゲームバランスのためにそのようなシステムは用意され、それがどこにあるかでプレイヤーの意識を誘導できる。

 どこにあるかでゲーム中で起こるイベントの頻度に意識を集中させ、数を調整することでプレイヤーにゲームオーバーを警戒させる。


 その見た目は大体結界かクリスタルのようなもの、あるいは教会だ。

 このイメージは大作RPGから来ている。

 私はオウムの見た目が好きかな。


 今回はそのセーブポイントが出現した話だ。





 実験室について、報告がある。

 どうもあの実験室、開発が進むごとに範囲を拡大しているようなのだ。

 最初に見たときは半径30m程度しかなかったのが、今では半径60mほどの広さになっている。

 大雑把に言って小学校の校庭2つ分ほどの広さだ。


 いささか個人所有するには広すぎる範囲になってきた感がある。

 最もお構いなしに開発を続けている兄のせいなのだが。


 最も普段私が使う範囲がテラスだけなのもあってあまり強く言えないところではある。

 そのテラスも兄の手製であるし、テラスに持ち込んでいる家具も兄の財布から出ている。


 ある種の共犯関係に近い、のだろうか。私と兄の関係は。

 困ったものだ。

 兄から得る利益は大体斜め上なのだ。


 今日もガチャを回す。

 できれば斜め上の手段で開発が進まない物が出ればいいが、多分望んでもそうはならない。

 ハンドルは今日もなめらかに回る。冷静に考えるとこれもおかしいな。カプセルの抵抗感がない。

 排出されるのは白いカプセル。SRと刻まれていて重量感がある。

 テラスに持ち込み開けることにする。


 SR・セーブポイント


 重量感のあるものが落下した。

 そこにあったのは宙に浮くクリスタルだ。

 台座の上にクリスタルが据えられ、その上にはSの文字が浮かんでいる。

 そして、クリスタルを囲むようにクリスタルに似た素材の円環が2つ交差しつつ回っている。

 全長は2mほど。薄らと発光しており、夜の闇の中から遠巻きで見てもはっきりと見えるだろう。


 ゲ、ゲームのセーブポイントだ……。


 ゲームのセーブポイントが出現した。

 え?

 いや、開発は進まなさそうだが、これはなんだ。


 まずは調べるところから始める。

 ゆっくりと触れてみるとひんやりしている。そして、それに対して反応はない。

 ……?


 まて、これどうやって使うんだ?

 セーブポイントである以上、セーブできるはず。

 で、セーブをするには何をすればいいんだ?


 見た目に可動しそうな部品はない。

 試しにクリスタルをノックしてみたが反応なし。

 本当にこれなんなんだ。


 いじくり回していると、わずかに円環が動いた。

 は?

 そしてその手応えに、あるものを思い出した。


 知恵の輪だ。

 これは、巨大な知恵の輪なんだ。


 え? マジ?

 セーブするのに知恵の輪を解かないといけないの?

 しかもこれ、恐ろしいことに手応えからすると、知恵の輪としての形が見えないのだ。

 透明な知恵の輪を解くことを要求するセーブポイント、なに?




 シャオラァ! 解いてやったぞ!

 3時間かかったわこのボケ!

 基本は2つの円環を回転させながら、見えないスリットと接続棒を交差させ続けることで少しずつ上に上がっていくという構造だった。

 コツコツぶつけながら形を脳内に構築していく作業、非常に面倒だった。


 それで、だ。

 現在外れた輪っかが手元に2つあるわけだが。

 よく見ると輪っかにはRとSの文字がびっしりと刻まれている。

 細かすぎて外してから気がつくほどだ。


 で……これはどうすれば……?

 思わず輪っかを両手で引っ張る。


 するとバキン、と音を立てて割れた。

 え?

 それと同時に脳裏に響く「セーブしました」の音声。


 外して割れたはずの輪っかが消失した。

 クリスタルに目を向けると、最初にあった通りの姿になっている。


 え? もしかしてあの面倒な知恵の輪を解き直し?

 二度とやりたくねえ……。



 後日、兄に教えたのだが、知恵の輪を解くのを速攻で諦めていた。まあ、そうなるな。

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