R 人をダメにするソファ

 ネットで一時期評判を呼び、爆発的に売れたあるソファーがある。

 それはビーズクッションソファーだ。

 中にパウダービーズが入っており、極めてもちもちした感触のソファーで、これが体にフィットすることで無重力感に似た一体感を生み出し、なんとも言えない心地よさを生み出しているのだ。

 私も欲しかったのだが、予算の関係で断念する羽目になった。

 今なら売り切れしているということもないとは思うのだが。


 今回はそのソファが出た話だ。まあいつものように思ったようなものにはならないのだが。







 実験室開発が著しい。

 金属を得たことによるものか、サメ妖精のシャチくんの登場によるものか。

 いや、両方だ。

 ヒヒイロカネとシャチくんの相性が異常なほど良い。


 その関係かわからないが、畑になっているスペースに見たこともない植物が生育し始めている。

 金属光沢を持つ葉を生い茂らせた植物など、私の知識には存在しない。

 これがまた美味そうな実をつけているのも良くない。


 これまた金属光沢を持つ球形の果実なのだが、非常に芳しい柑橘系の香りがするのだ。

 光沢の割に触ってみると柔らかく、よく熟れているようなのだ。


 しかし得体の知れないモノは食べない。食べてはいけない。

 せめて兄が食べるところを見てから食べるべきだと思う。



 回されるガチャ。白いカプセルが排出された。

 開ける。


 R・人をダメにするソファ


 とさ、と軽い音とともに足元に一辺80センチほどの大きさの布で出来た立方体が出現した。

 それは自重で潰れ、丸いもちもちとした形状になる。

 カプセル内の紙によればソファーらしい。……いや、見たことがあるぞ。ネットで話題になっていたやつだ。


 手触りももちもちサラサラとしていて、どうもその話題のソファーそのものの様に見える。

 いや、すでに一部おかしいといえばおかしいところはある。

 不自然にでかいのだ。

 こういうソファーは座るために高さが抑えられているはず。

 だが、これはそういう配慮もなく80センチもある。

 重量で潰れるから座れなくもないが。


 おかしい。普通だ。そんなことあるか? だってガチャだぞ?

 今までさんざんおかしなモノしか出して来なかったあのガチャだぞ?


 座ってみるか。

 そう思い腰掛けてみる。

 体を包み込むこのフィット感と、絶妙に体を固定するこのホールド感。

 うむ。人をダメにするソファそのものだ。


 いや本当に気持ちいいなこれ。

 当時値段が高くて手が出なかったが買うべきだったか。

 いや今回手に入ったからいいとすべきか?





 気がついたらソファーで寝てしまっていた。

 それで、だ。

 やはりこのソファーはガチャ産だった。間違いなく。


 ああ、この浮遊感。最高だよ。


 本当に浮いてなけりゃな!

 私は現在天井すれすれのあたりを逆さまに浮いている状態だ。

 無重力空間でソファーに座った状態で浮いているようなイメージだ。

 頭を上げると床が見える状態というのは中々不可思議な体験であると言える。


 しかし、体に感じる重力の方向はソファーの方向。

 すなわちソファーに座った時の姿勢のまま浮かび上がって、その状態で固定されているようなのだ。

 その上で体が自由に動く。

 ソファーの上で寝返りをうつぐらいなら出来そうではある。

 見ている人が混乱しそうな動きだ。


 しかし、これ飛び降りるしかないのか?

 体をよじればそう難しくはないと思う。


 意を決して飛び降りる。

 2mほどの微妙な高さだ。

 着地がちゃんと取れれば怪我にはならないだろう。


 そう思っていたが、この部屋にはアレがあった。

 そう、ガチャポンマシンである。

 無事目算を誤った私は、筐体に腹をこっぴどく打ち付ける羽目になるのだった。



 後日、ソファーはカバーにロープをくくりつけることで高さを制限して私の部屋に設置する事になった。

 無重力感といい、座り心地自体はいいんだ、座り心地自体は……!

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