R 紅玉チョコレート

 日本におけるチョコレートの種類は極めて数が少ない。

 これは日本に輸入されてくるカカオ豆の種類が極めて限定されているためだ。

 カカオ豆の種類によってチョコレートの味は変わってくる。

 しかしその風味の差は日本人の舌に合わぬらしく、チョコレートを販売しているいくつかの会社による寡占が続いた結果、日本におけるチョコレートはほぼ三種類といっていいレベルで均一化されている。


 カカオの成分を中心に作られたブラックチョコレート。

 粉乳を加え味を整えたミルクチョコレート。

 カカオ豆からココアバターのみを使用し作られたホワイトチョコレート。

 

 商品による配合の差が存在するとしても、その差はカカオ豆の種類による差に比べれば微々たるものである。


 ここに近年、根本的に使用するカカオを見直すことで異なる味を創造することに成功したチョコレートが加わった。

 それがルビーチョコレート。ルビーカカオと呼ばれるよりすぐりのカカオから作られた美しいピンク色のチョコレートである。

 一般的に思い浮かべられるチョコの色合いと異なるのは、カカオの持つ成分の違いによるものだ。

 もとより赤いルビーカカオを加工した結果、添加物を加えていないにも関わらずフルーティな味わいと香りを持つのだ。

 色合いの鮮やかさと独特の味わいから、これからどんどん新商品が出てくるであろうチョコレートである。



 長々と語ってしまったが、今回はそのルビーチョコレートを騙るなにかが出てきた話だ。





 我ながら悲しい話である。何が悲しくてヴァレンタインデーにこんなモノガチャを回さなければならないのか。

 事の発端は例年のごとく兄とのチョコレート菓子製作勝負を行っていた時である。

 どちらがより美味いチョコレート菓子を作るか、という対決である。

 兄は彼女へのご機嫌取りのために作っている、らしい。その彼女に会ったことがないので真実かすらわからないし、なんなら出かけているところも見たことがない。


 まあ勝負自体はクリスマスにもお盆にもやっているので、おそらく妙な見栄を張っているだけだとは思うが……。


 フォンダン・オ・ショコラを焼き上げた私に向かって兄は突然なにかを思いついたようにこういったのだ。


 今日、ガチャ回したらチョコ出るんじゃね?


 と。やめろ。兄はそういうのを思いついたらすぐ実行するタイプだ。

 懐から財布が出てきて焦る。行動が早すぎる。


 というわけで回す羽目になった。

 500円玉の代わりにコインチョコを投入。これで壊れるならいっそ壊れてくれ。


 N・ブランドチョコレート


 と、季節感というものを完璧に理解した排出をしてくれやがる。普段は嫌がらせのような物品しか排出しないくせに。

 しかしこれは普通に当たりのほうだ。なにせまだ理解できる。

 カプセルに一粒しか入っていないが。

 たしかこのブランドのチョコレートは一粒300円程度。イカサマなしに回していたら普通に損である。


 兄にはやらん、と口の中に投げ込む。

 一回で終われば良かったものの、報告すると追加資金が飛んでくる。

 本当に面白そうなことには手段を選ばんなこの人は。


 R・紅玉ルビーチョコレート


 とさ、と牛肉の時に比べれば軽い音とともに箱が出現する。見るからに高級そうなチョコレートの箱だ。

 開けてみるとそこには、紅玉ルビーが並んでいた。


 宝石じゃねーか!


 ピジョンブラッドのようにも見える濃い赤のルビーが箱に8個並んでいる。

 こ、困る……。


 だが、箱からは香ばしいチョコレートの匂い。やはりなにかおかしい。

 手にとって見ると、ぬるりとしたチョコレートの油分のような感触。


 その、なにか? これは結晶化したチョコレートだと?

 おかしいところはその製法か?


 というか、紅玉ルビーとルビーチョコレートを掛けたジョークのつもりか!?

 くだらないギャグはやめろ!


 


 後日。きれいな宝石のように見えたチョコレートは、全て兄の腹の中に収まった。

 味の方は「美味い」だそうな。

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