SSR 実験室

 一般的なガシャポンにもレアリティはある。これは一般的かと言われると私は知らないが、「アソート」と言うらしい。

 つまり、筐体に納められるカプセルの中にいくつ入っているか、という指標だ。

 1/50アソートならば、カプセル50個のうち一つの割合で入っている、という具合だ。

 仕入れする時は袋に入れられて運ばれてくるため、何がいくつ入っているか、ははじめから固定されていると言っても良い。

 全てを引いてしまえばどのような排出のものでも必ず手に入ると考えるべきか、通常の排出が10個に一つ程度であることを考えれば回し続けるのは割高だと考えるべきか。


 最もそんな常識がこいつに通じるわけがない。

 今回は牛肉以来、久々に高ランクと思しき排出をした日の話だ。



 「SSR」と記号が振られた金色のカプセル。やはりこの記号はソーシャルゲームのレアリティに依存しているのか。確かに内容物もそんな感じではあった。

 「SR」で排出された牛肉よりも価値があるとは思えない物品ばかりだったからな。

 「N」は百均でも買えそうなモノ。ただし素人目には分かりづらいブランド物だ。一個単位で排出するのであまり意味がないが。

 「R」はどこかおかしいモノ。おかしいなりに大体役に立たない。

 「SR」は牛肉しか出たことがないからわからない。


 大雑把にはこんな感じだ。両面とも表の500円玉や匂い付き消しゴムなんかもあるから一概には断言できないが。


 で……今回のカプセル。金色に光り輝いている。美しい光沢だ。コレまでのカプセルはそんなことはなかったというのに。

 流石にワクワクする。

 早速開けてみよう。


 SSR・実験室


 と書かれた紙。それを見たと同時に、ゴトッ、とすごい音がして視線の先に扉が出現した。

 古めかしい重量感のある木製のドアだ。それが部屋の壁から50cmぐらいの地点に立っている。


 どこ○もドアかよ。


 その扉を見て思ったことはそれだ。その場に扉とフレームだけが直立しているため違和感がすごい。

 そしてものすごい邪魔だ。ドアだぞ? よりによって壁際中央を陣取っている。

 ガチャ筐体に比べれば壁寄りだがそれでも空間を無駄に占拠しているのだ。

 幸いなにも家具を置いていなかったため壁と扉の隙間で動かせない、みたいな問題が発生しなかった。


 これだからこのガチャは信用ならない。

 案の定扉の位置を動かそうとする試みは失敗に終わった。また部屋のデッドスペースが増える……。


 まあいい。問題はこの扉がなにかだ。実験室だと言う以上、どこか違う空間にでも繋がっているのだろう。

 そう思ってレバーハンドルに手をかけ、引く。ガン、と干渉する音。


 筐体にドアの縁が引っかかっていた。


 邪魔だこのガチャ!

 飛び蹴りをかましたいところだが、かましたところでこいつはてこでも動かん。


 筐体を回り込み扉の奥を覗くことにする。

 扉の向こうには草原が広がっていた。

 果てまで青々とした草原がだ。

 抜けるような青空に穏やかな気温が感じられる。


 これは実験室ではないのか?


 靴下を脱ぎ、そっと踏み出す。扉からは若干の段差がありバランスを崩しそうになった。

 草原特有の匂いが肺を満たし、眠気を呼び込む。

 ここで眠ると気持ちいいだろうな……。


 ふらふらと歩いてみた結果、扉を中心に30mほどの地点に見えない壁がある。

 また足元の草も芝生の如く奇妙に整っており、裸足で歩き回ったにしては足へのダメージが少ない。

 スマホのGPSは反応しない。いや反応してはいるのだがその座標は我が家を指している。


 実験室(露天)。いやなにをしてもいい個人用空間という意味では確かに実験室だ。

 だがだからって本当に何もない空間じゃないか。

 納得は行かない。これだからあの筐体は回したくない。


 考えていたら眠たくなってきた。

 寝よう。日差しは穏やかで風は優しい。きっと気持ちよく眠れる……。






 翌日、扉を開けてみると雨が降っていた。やっぱり外なのかよ。微妙に使えねえ。

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