R すき焼きのレシピ本
このガチャは基本的に“ブランド”というものにこだわりがあるらしい。
一般的な物品……例えば「N」の記号が書かれたカプセルから出てきたカメノコタワシであるが、これはどこぞのブランド品だったそうだ。
傾向としては消え物、消耗品が中心ではある。
最もサンプル数が12ほどなので正しいかは微妙なところだ。
今回はそうではないもの、すなわち異常な排出品の話だ。
ハンドルが滑らかに回っていく。
今回投入したのは500ウォン変造硬貨と100円玉、玩具2枚だ。
500ウォン変造硬貨は500ウォン硬貨にドリルで穴を空けることで重量を500円玉に近づけたものだ。
主に自販機を騙して500円と認識させるために使用されていた。
これが横行したために現在の500円玉に移行し、自販機も改修された、という都市伝説が存在する程度には有名な一品である。
なんでそんな物があるかというと、これも兄のくだらない悪戯のためのコレクションの一つである。自販機から吐き出されたこの詐欺用のコインを後生大事に抱えていたと思ったらいきなり私の貯金箱に投入されていたのだ。
現在でもコミケなど手渡しでコインを扱う場合で詐欺に使われるらしい。
排出されたのは「R」と刻まれた白いカプセル。開封すると中から出てきたのは24ページほどの小冊子だった。
明日の献立120選、と書かれた表題からもういきなり嫌な予感しかしない。24ページしかないのに120もどうやってレシピを詰めるつもりだ。
ページを捲る。大きな一枚の写真で美味そうなすき焼きが描かれている。
肉が纏う光沢の美しさからこれが相当良いレシピなのだろう、と感じさせられる。
お腹空いてきたな。
ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。
ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。
ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。
ページを捲る。……。
全部すき焼きじゃねーか!
全部、見開きですき焼きじゃねーか!
全部で12のレシピが載っていたが、その全てがすき焼きな上、内容もどうも同じだ。
唯一写真だけは巧妙に違うものになっているが、それが余計すべてすき焼きしか載っていない事実を強調する。
なまじ美味そうなだけになんなんだこのレシピ本……。
さて。早速だがレシピに従ってすき焼きを作っていこうと思う。
レシピ本がおかしなこととレシピが美味そうなことは別だ。
材料は、牛肉、牛脂、白菜、ねぎ、しいたけ、人参、糸こんにゃく。
そして割り下の材料が水、和風だし、酒、みりん、砂糖、ガラムマサラ、クミン、ターメリック、粉末唐辛子、油だ。
この時点で、カレーでも作るのかという勢いでスパイスが登場しているが、これでレシピ通りなんだから恐れ入る。しかもご丁寧に混ぜ合わせる順番を間違えないようにとの注意書きだ。
なおスパイスは兄が一時期カレー作りにハマっていた時の残りだ。
割り下をフライパンの上で煮立たせながら書かれたとおりの順番でスパイスを投入。どうにも入れるたびに色がカレーに近づいていくことに不安を覚える。
唐辛子まで投入し終え、それをゆっくりと冷ます。そこに油を大さじ1杯注ぐと、突如虹色に光りだし、見事な飴色の割り下となった。
は?
割り下を少し味見してみる。見事、というほか無い割り下の味だ。あんなに大量に入れたスパイスの風味がどこに行ったのか、さっぱりわからない。
まあ、美味いからいいか。
そう思って牛肉を炒め、具を投入。それに割り下を回しかけ、蓋をする。
すき焼きって蓋してまで煮込む料理だったっけ?
そう思ったのもつかの間。出来上がった料理の蓋を取るとそこには
ワイバーンのフィレステーキ
が出来上がっていた。
……。
!? いや、なんでこれがワイバーンのフィレステーキだとわかった!?
おかしいおかしいおかしい。そもそも使った肉は牛肉で、細切れの物だ。
どうしてそれが一枚肉になっているのか、しかもそれがなんで“ワイバーン”なのか。
それをどうしてそれだと認識できたのか、さっぱりわからない。だが、出来上がった料理はどう見てもワイバーンのフィレステーキなのだ。
出来上がった得体のしれないなにかをそっと兄用の皿に盛り付ける。
ご丁寧に付け合わせまで出来ているのできっと食べてくれるだろう。
そっとテーブルに置いて、出来上がったものを見なかったことにした。
翌日。あのステーキを大層気に入った兄がレシピを要求してきたので渡したところ、台所でビスマス結晶に似た虹色の鉱石を生成していた。
スパイスを適当に同時投入したらしい。順番が大事ってそういう……?
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