R 黒のまどうしょ

 おかしなアイテムにも強弱がある。それでも基本的に見た目と名称からその機能を類推することが可能だ。考えることができるだけで実際に何が起きるかは全く想像できないのだが。

 例えばNで出現したこの手紙封筒。なんと入れた内容が反転する。しかもその反転基準に一貫性がまったくない。

 ごみ袋にしようとちぎった紙を入れたあたりでその効果に気が付き、意味がわからない文章が出力されたときはマジか……となった。

 1字単位で逆さまになったり、紙質が反転したり(触っているのに触っていないような感触がしていた)きちんと言葉の意味が反転していたり、あと物理的に形が反転していたり。


 今回はその中でも直球が飛んできた時の話だ。




 R・黒のまどうしょ


 出てきたカプセルを開けると、一冊のノートが出てきた。

 いわゆるキャンパスノートである。規格化されたあの大きさの、パステルカラーのアレだ。

 出てきたそれも、例に漏れずパステルカラーだ。黄緑とはなかなか渋い色を選んでいる。

 それの表表紙に、ヘッタクソな字で「黒のまどうしょ」と書かれているのだ。おそらく使用されたペンはポスターカラーだ。インクが垂れた跡がある。


 パラパラ……とめくってみる。そこには魔法陣のようなものが書かれたページと、それの使い方が書かれたページとが交互に現れている。

 中の文字もまたきたない。読みづらくて仕方ない。


 しかし、これまでと比べても使い方が書かれているだけまだ親切である。

 詫び石とか本当に使い方がわからない。未だに。


 ええっと……なになに。


 2.魔法陣を切り離します。


 2。いきなり2から始まった。1はどうした。


 3.切り離した魔法陣を投げます。


 魔法陣なのに投げるのか。


 4.魔法が発動します。


 はい。……はい?

 そこで使用方法は終わっていた。雑すぎる。

 魔導書と書いてある以上、まあ魔法が使えるんだろうこれは。


 ペラペラとページをめくり見つけた、「ファイア」と書かれた魔法を試してみようと思う。

 魔法陣をページごと切り離す。ご丁寧に切り取りのミシン目まで入っていた。全体的に作りが雑なのになんでだ。


 切り離された魔法陣。なんというか渦巻くような無数の文字。魔術やなにかしかに詳しいわけではないが、魔法陣の造形は形に意味があるらしい。だが、見たことがない造形をしている。円なのか四角なのか、それすらも把握できない。

 強いて言うならQRコードに似ている? だろうか。


 安全のために実験室の中で投げることにする。

 初めて実験室が実験室らしい働きをしている。


 投げると紙はへろへろと飛んでいった。

 まあ当然だ。A4ノートをちぎっただけなんだから。


 やがて、地面に落ちる。すると強烈な閃光とともに、10mほどの火柱が上がった。


 やっべえ。ログハウスの壁が焦げた。

 一瞬だったから焦げるだけで済んだ。いや、一瞬で焦げている時点でだいぶ過剰火力だ。

 あんな手抜きなデザインからこんな火力が想像できるか!


 ほかも「サンダー」やら「ブリザード」やら大概な攻撃魔法しか載ってないんだぞこれ。

 現代日本で役に立つわけ無いだろこれ。

 どうすんだよこれ。




 こういう過剰気味な物品は兄の好みなので渡しておいた。きっと役立ててくれるだろう……。

 後日、キャンプ道具にしやがった。なんで使いこなせてるんだよあの人。

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