UR ガチャ

 本日、2月17日はガチャの日であるらしい。なんでも日本初のガチャマシンが商店に導入され販売が始まった日だそうだ。

 由来がしっかりしている分、他の語呂合わせでしかない記念日よりも遥かに記念日らしい。

 もともとは1回10円だったガチャも、物価の変動や商品の多様化に伴い、その現在の値段はおおよそ100円から500円のものが中心になっている。

 特に多様化の波は著しく、「公衆電話のフィギュア」や「可動する盆栽」といったよくわからない商品や、「カプセルがそのままダンゴムシに変形する」「カプセルを組み替えるとロボットの頭部になる」といったガチャの形状を生かした商品が出てくるなど様々な趣向が凝らされている。



 だが今回はそんな中でも凶悪なヤバいガチャが姿を現した話だ。




 気がつくと実験室内にログハウスが出来上がっていた。兄の仕業である。

 “何故か”加工しやすい木材を手に入れた兄は、完全におかしくなっていた。

 テラスだけでは飽き足らず何かを作りたいという欲求が無限に増大していたのだろう。その結果がコレだ。


 無駄にしっかりした作りに見えるログハウス。何故か垂直に切りそろえられている用に見える丸太で組まれた壁。窓は流石にガラスを持ち込めなかったのか、木板で蓋をするタイプだ。


 扉? そんなものないよ。


 正直このログハウスの材質に思考を巡らせたくない。

 というか、このあと絶対記念とか言ってガチャを回させるだろう、この兄は。


 そういう事になった。


 ゆっくりとハンドルを回しながら出てきたのは……うっわ見るからにヤベえ。

 虹色に発光するカプセルに、同じく虹色で書かれたURの文字。読みづらくてかなわない。

 めちゃくちゃ目がチカチカする。

 しかもこのカプセル、なんというかコレまでとは違う重量感があるのだ。

 本当に開けて大丈夫なやつなのかコレ。絶対ヤバい。


 だが開けるしか無い。なのでログハウスで開けることにした。

 ヤバいものが出ても破壊されるのはログハウスだけだ。


 カプセルを回して開ける。それと同時に、金床が落ちてきたかのような破壊的な重量が落ちてきた音がする。


 UR・ガチャ


 中の紙には、絶望が書かれていた。そっと音の方向に目を向けると、そこにはコインロッカーに似た巨大な筐体が、入り口の床を破壊して2割ほど沈み込んでいる。


 よりによって。

 よりによって。

 よりによってそれか。


 この、自販機とコインロッカーを悪魔合体させて、商品ディスプレイの代わりにこれでもかとカプセルを詰めたガチャ筐体。

 そう、悪名高き高額ガチャだ。その値段は基本1000円。1万円を呑む筐体もあるという。


 これの何がヤバいって、詐欺の温床なのだ。

 一般的でない筐体であるため、この筐体用に商品を卸している会社が存在しない。

 そのため、設置店舗側で中身を用意しているのだが、これがまためちゃくちゃに当たり外れが激しいのだ。

 それに高額なために、ガチャの内容も高額になりがちである。最新の家庭用ゲーム機で収まればいいが、最新のPCなんかが出てくると謳っている筐体すらある。

 が、そんなもん出てくる確率はいくつだ、という話だ。筐体には500個はカプセルが入りそうである。


 そういう高額商品か、詐欺だと暴くことを狙ってよくYou Tuberがカプセルを全部引きにかかる動画を上げているが、資金切れでろくに当たっているところを見たことがない。


 それに実は目をそらしていることがもう一つある。


 筐体についているロッカー。これには高額商品をディスプレイするために窓がついている。

 そこに、見えているのだ。


 肉が。


 これ「SR・高級ブランド牛 500g」じゃねーか!

 やめろ、頭を抱えたくなる要素を増やすな!


 それだけ済めば良いのだが、電気コードも入っていないのに定期的にセールストークを放送しやがるのだ。

 癪に障る。


 しかし一番癪に障るのはその値段だ。1回3万円。ふざけているのか?

 3万て。

 詐欺ガチャでもそんなに欲張らない。


 私は窓から這い出て、もう二度とログハウスに近づかないことを誓うのだった。



 その後、兄にそのことを告げたのだが、兄にはあのガチャ筐体が見えていないようだった。そして3万円は流石に捻出できなかったようだ。なむさん。

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