第11話 彩音のリベンジ

 その日の夜。

 夕食を食べ終えた私は、使った食器をキッチンで洗っていた。

 私と一緒に夕食を食べた翔太郎くんは、今、リビングソファーでテレビを見ている。

 最初は、手伝うと言ってくれたのだけど。

 この家の家事は私の役割なので、丁寧に断った。

 正直、嬉しい気持ちはあったけど。これが、黒江家の人たちにできる、唯一の恩返しだから……。

 ちなみに今日のメインは、初挑戦の肉じゃが。おふくろの味と言われるだけあって、各家庭によって味が異なるので、翔太郎くんの口に合うか不安だった。


『あっ……美味しい』


 結果としては、作った甲斐があったし、この一言が貰えてとても嬉しかった。

 自分で食べてみても、まあまあの出来だったので、まだまだ改良の余地があることがわかった。


(今度は、もう少し砂糖の量を…――)


 それから、洗った食器を乾燥機に入れると、今日の仕事は無事終了した。


「あの……翔太郎くん」


 私が呼ぶと、彼が顔をこっちに向けた。


「っ……い、いえ、なんでもないです」

「? なにかあるなら言ってください。気になるじゃないですか」


 そう言って、私の目をじっと見てくる。


「……もしかして、二人で暮らすことについてですか?」

「その件とは、また別のこと……と言いますか……」

「?」

「私が言いたいのは……先週末のことについてです」

「先週末って、先輩が誘ってくれたあれのことですか?」

「……はい」


 翔太郎くんは話が早くて助かります。


「楽しみにしていたのですが、生憎の大雨で行けなかったんですよね」


 私にとってあれは、一世一代の勝負だった。

 ……でも、その私の勇気を、あの雨がすべて流してしまった。


 だからこそ、今回は……。


「なので……今回は、リベンジをしたいと思います」

「えっ? リベンジ?」


 私は、力強く頷いた。


「リベンジですか……。僕は、別に構いませんけど」

「!! それなら、決まりですねっ! では、リベンジをする日なのですけど。明後日の水曜日はどうかと」

「先輩……水曜日って平日ですよ?」

「ふっふっふっ。翔太郎くん、明後日の水曜日は祝日で、学校はお休みなんですよ」


 と言うと、翔太郎くんは驚いた顔でリビングのカレンダーを見つめていた。

 どうやら、水曜日が祝日であることをすっかり忘れていたらしい。


「どうでしょうか、翔太郎くん!?」

「いいですよ。どうせ予定なんてありませんし」

「っ!! わかりましたっ! ……あっ。一つ言い忘れていたことが」

「?」

「今回は、きちんとある対策を考えているので、楽しみにしていてください!」

「…………対策?」


 よしっ! これで今日のミッションは完了!

 雨でもなんでも、私にかかってきなさい!

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