第7話 少女の考えごと

 夕食を食べ終えると、姉さんは目を擦りながら席を立った。


「んん~……じゃあ~私……部屋に戻るからー……」


 と言うと、自分の腹をポンポンと叩きながらリビングの扉に向かう。


彩音あやねちゃん……ごちそうさま~……美味しかったよー……っ」

「はいっ、お粗末様そまつさまでしたっ」


 先輩に夕食のお礼を伝え、姉さんはリビングを出て行った。


「ごちそうさまでした、先輩。とっても美味しかったです」

「喜んでくれてよかったです」


 お礼の言葉を聞いて、先輩は満面の笑みを浮かべた。


「あ、先輩待ってください」


 テーブルの上の皿をキッチンに運ぼうとする先輩を、慌てて呼び止める。


「どうしたんですか?」

「えっと……」


 今度こそ、言っておかなければならない。


「……皿の片づけなら、僕も手伝いますっ!」


 先輩がこの家に来てまだ二日だが、先輩だけに負担をかけるわけにはいけないのだ。


「で、でも……」

「手伝わせてください! 先輩の力になりたいんですっ!」


 すると、今回は僕の意思が伝わったのか、俯かせた顔を上げた。


「……では、テーブルの上のお皿を運んでもらえると、助かります……っ」


 その言葉を待っていたんですよ、先輩。


「任せてくださいっ!」


 そう言って僕は、テーブルに乗っている皿を運び始めた。




「これで最後……っ」


 洗い終えた皿を横にある食器乾燥機に入れると、


「ふぅ……。終わった……っ」


 やっぱり、自分で洗ったものは格別にきれいに見える。


 まるで、丁寧に磨かれた宝石のよう……。


「……ふふっ」


 そんなことを考えていると、ふとある事を思い出した。


 そういえば、翔太郎しょうたろうくんが…――


『お風呂を沸かしたので、ゆっくりと休んでください』


 と、言っていましたね……。


「っ……お言葉に……甘えますか……っ」


 せっかく、お風呂を沸かしてくれたのだから、入らないと損するに決まっている。


(……うんっ)


 私はエプロンを脱ぐと、借りている一階の和室に着替えを取りに向かった。




「ふぅ~……」


 湯船にゆっくりと浸かると、つい声が漏れてしまう。

 お湯の温度は熱すぎることもなく、ちょうどいい湯加減だった。


「…………っ」


 長い黒髪が、水面を漂っている。

 ロングヘアは、手入れにとても時間がかかるし、乾かすのにも相当時間がかかってしまう。


(本当は、ショートの方が楽なんですけどね……)


 ……それにしても、手伝ってくれるだけではなく、お風呂まで用意してくれるなんて……。


 翔太郎くんは、気が利いてとても立派な男の子、というのが私の印象だ。

 美奈みなさんも、来たばかりのわたしに優しく接してくれる。

 奈津子なつこさんだって、私のわがままとも言える話を、最後まで聞いてくれた……。


 この家の人たちといると、心がポカポカと温かく…――




「………………………………………………………………………………」




 床に落ちる水滴の音だけが、無言の浴室に響き渡る。


「……そろそろ出ないと……のぼせてしまいますね……っ」


 そう言って私は、この静寂を振り切るように湯船から上がった――。

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