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 その晩、僕は珍しく悟のことを夢に見た。僕と、悟とリク。僕ら『ナギサニテ』の三人の夢だった。


 夢の中での僕らは、出会った時と同じ高校生だった。お互いワイシャツに黒のスラックスで。背中にカバンを背負っていた。そして僕の手には容器いっぱいのポップコーンがあって、いっぽうで悟の手はガールフレンドの体温に満たされていた。

 あのころ僕らはよく三人で出掛けた。森島薫と、古橋悟、そして当時の悟のガールフレンドで、いまは僕らのバンドのドラマーである舟渡莉久フナト・リクの三人で。僕ははじめ二人のデートを邪魔するようで気まずかったけれど、しばらくしたらそれも慣れた。リクは僕らより三歳年上の大学生で、僕にしてみれば姉みたいな存在だったから。もっとも、姉が親友のガールフレンドというのもかなり気まずいものだけれど。でも、とにかくあのころ僕らは三人で楽しかった。悟とリクがセックスしているのを想像しない限りは、僕は冷静でいられた。

 夢の中、僕らは映画を見ていた。誰もいない真っ昼間の映画館だった。僕らはテスト期間で午前中だけの授業で、リクは講義をサボったと言っていた。

 すっからかんの劇場で、映画は始まった。僕らは横に並んだ。右から僕、悟、そしてリク。リクの手が悟の足に触れているのが僕にはわかったけれど、でも悟はすぐにそれをふりほどいて「ちゃんと見よう」と囁いていた。あいつはこういうとき妙に律儀なやつだった。

 映画は奇妙なものだった。まあ、夢の中だし当然なんだろうけれど。それは僕らの過去を映し出していた。僕らがバンドを結成したときの思い出が、まるで結婚式か卒業式の余興のスライドショーみたいに、パラパラと音楽とともに流れていった。

 ――はじめて僕が悟と出会ったとき。

 僕らは高校で出会ったけれど、はじめはお互いのことをよく思ってなかった。僕は悟のことをスノッブなヤツだと思ってたし。また彼もそうで。でも結局、お互いに完成が近い人間だとわかるとすぐに打ち解けた。そしてお互いに音楽が好きだとわかれば、一緒にスタジオに行くまでにそう時間はかからなかった。

 ――はじめて僕ら三人が出会ったとき。

 僕と悟が決定的に違うのは、とにかく悟は年上にモテたということだった。同じスノッブ野郎でも、あいつの鼻持ちの悪さは、母性をくすぐるタイプのそれなんだろう。だからあいつは代わる代わる年上のガールフレンドを連れてきた。一人目は三年生の女子で、二人目は教育実習の先生、そして三人目が大学生の舟渡莉久だった。

 ――僕らが初めてバンドを組んだとき。

 それは何気ない瞬間だったと思う。悟の家は金持ちで、地下にシアタールームがあったんだけれど、僕らはよくそこに楽器を持って集まった。そこへ偶然リクが遊びにきて、そしてドラムを叩いた。あとになって知ったけれど、リクは大学の軽音サークルでバンドを組んでいて、ちょうどこのとき彼女のバンドは解散が決まったのだった。解散の理由は『ボーカルの女性問題』で、泥沼の解散劇だったという。そうしてバンドに愛想を尽かしたリクは、愛すべきボーイフレンドのもとにやってきて、そこで偶然にも憂さ晴らしにドラムを叩いた。そこへ悟のベースが合わさり、さらに僕がギターで適当なリフを引いて飛び込んだ。三十分ほどしたころには、僕らはバンドを組んで『ナギサニテ』と名乗っていた。

 それが僕が夢のなかで見た映画だ。

 きっと誰しも一度は自分をテーマにしたドキュメンタリーを撮るのを想像するだろう。自分の生涯がいかに刺激的で、クールで、他人と違うのか。それをスナップし、クリッピングしてみたいと一度は思うはずだ。

 きっとその日の夢は、僕のそんな思いが反映されたんだと思う。だから夢のくせに、妙に生々しく思えた。

 夢の終わりは、映画の終わりのころで。エンドロールのときだった。

 僕は自分たちの名前がキャストとして連なるのを見てから、横の二人に目をやった。

 そこには熱いキスを交わす悟とリクがいて、僕はすっかりヤな気分になって目を覚ました。

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