第5話 自身の体の実験

 ヒーローになりたい訳ではない。

 ただそこに興味があったから、異世界の人はこの魔力と融合しているから、魔法を使えるそうだ。

 ということは僕もこの魔力と融合すれば魔力を使えるのではないだろうか。


 肥料がこちらの世界の物なら、あちらの世界は魔力だ。

 この2つが合わさることで最強な土となった。


 自分自身がこちらの世界の物なら、あちらの世界の魔力があれば、僕は最強な生物になれる。


 別に最強な生物になって地球を支配してやろうとか、そのような事は思っていない。


 ただすごく腹が立つ事がある。

 それは国王だ。


 異世界にいる国王はネンネの父親の首を両断した。

 それはなぜか? 文句を言うなだから?

 ふざけるな、民がいて国がなりたつ。


 父親はよく言っていた。


 民が居るから人々が成り立つ、貴族がいるから成り立つものではない。


 なぜそのようなことを言っていたのだろうか?

 

 彼はこちらの世界の住民のはず、こちらの世界の住民の人が民とか貴族とか言わないはずだ。


 僕は少しずつ気付き始める。


 恐らく父親は異世界の住民だ。

 その異世界の住民がこちらに来て色々と実験していたのだろう。

 さらに母親と出会った。そして僕と林介が生まれた。


 これはすべて憶測だ。

 憶測に憶測を重ねているだけの妄想虚言なのかもしれない。


 でも僕は迷いはしない、僕が守らねばならない人、これは人生で初めての初恋、偶然好きになった。


 その気持ちが本当なら、僕は彼女を守りたい。

 ネンネが死ぬ姿を見たくない、ネンネの父親が惨殺されたのなら、次はネンネが殺されるかもしれない。


 そんなことは許したくないし、信じたくない。


 だから僕は。


 注射を右腕に突き刺す。

 そこから流れてくる気泡のような闇色の物質。


 全身にその魔力がいきわたると。

 次に起きたのは、拒絶反応。


 体の細胞が引きちぎられそうになるほど、苦痛が全身をおそった。


 心臓がばくばくと脈打ち、ぐるぐると回転しながら。


 眩暈は半端ではない、こんな眩暈を味わったことはない。


 ジェットコースーターに乗りながら、ぐるぐる回転しながら。

 右手の細胞が増殖していくような気がする。

 思わず右手でテーブルをたたく。

 そのテーブルは粉砕される。


 魔物のようなアニメとかライトノベルでしか見たことのない化け物の右腕があった。


 右腕はぐるぐると回転する。

 まるでぐちゃぐちゃになりそうなほど暴走すると、そこにはいつもの人間の右手があった。


 どうやら僕の右腕は魔力によって人間を辞めたらしい。


 次は、左腕だ。


「暴走するなよ」


 頭から冷や汗を流しながら、

 右腕に注射器を持ち左腕に突き刺そうとして。


「馬鹿野郎」


 それは突然起きた怒鳴り声、顔面をぶん殴られ、回転しながら壁に激突し頭から血が流れている事に気付く、そこには弟の林介がいた。


 弟の林介は僕の胸倉を掴むと壁に押し付ける。


「兄貴、お前、何やってんだよ、それ父さんの実験道具だろ、その化け物の手、どういうことだ。説明しろ、くそ野郎が」


「す、すまない、どうかしてた。僕は守りたいものを守る力が欲しい」

「なら俺に相談しろ、あれだろ異世界だろ、俺も何回か行ったことある。もう行きたくないがな」

「そうか」

「ったく、わーったよ、実は親父から引き継いだのがあるんだよ」



 僕と林介は何もない床下の上に立っていた。

 ここは巨大倉庫の中、林介は地面でステップを刻むと階段が出現した。

 まるで忍者屋敷だなとか思って階段を下る。


 大きな鉄製の扉がでてくる。

 そこに林介が手を当てる。

 データ引き継ぎとして僕も手を当てる。


「これで兄貴もここに入れる」

「こ、ここは」


 そこには無数の武器と防具が置かれてあった。


「兄貴、なぜ親父はこのような武具を集めていたか、聞いたことがあるんだ。俺は偶然そこを見てこの事を無理やり引き継がれ、俺は独自に異世界を研究してきた。だがもうあそこには行きたくない、兄貴が行くなら、交易をしてみてくれ、こちらの世界のものを提供する変わりにあちらの世界のものを貰うんだよ」


「だが作物などはこちらにもってこれない」

「作物じゃなければいいんだよ、薬草とか鉱石とか武器とか道具とか防具とかをな、親父にその仕事をやれと言われたけど俺は断った」

「なぜ?」

「ちまちました事は好きじゃないんだよ、この世界で珍しいものを裏で法律ぎりぎりで売りさばくのが面白い、そしてそういう珍しい物は大抵異世界が繋がっている。知ってるか異世界は1つだけじゃない」


 僕は唖然とその話を聞いていた。


「ここにある魔法の武具を使ってあんたは何がしたい?」


 僕は呆然と突っ立っている。


「まず村を開拓したい」

「ならやることだ。フォローはするぜ、あと人体実験は最後までとっておけ」

「なぜ止めた」

「今が最後じゃないからだ」

「はは」

「親父がいたら兄貴殺されてたぞ、親父とお袋から体をもらったのに、その体を傷つけるのかってな」


「それは言えている」


 ならこれをもらおう。


「これとかじゃない全部がお前のもんだ」


 僕はにやりと笑って、全身を覆う緑色のローブと、鉄の剣を地下倉庫から取り出し、この2つが普通の武具ではない事なんてすぐにわかっている事だった。


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