第6話 電気家具
林介が仕事でいなくなると、僕はリアカーみたいなものが壁に立てかけられているのを発見する。
そこに電子レンジと冷蔵庫を積み込むと、さっそく出発することにした。
異世界に通じる扉を通ると、そのまま草原を下る。
そこには今では活気に満ち溢れた村があった。
村に到着すると、村人達が歓迎の声をあげて迎え入れてくれた。
村長のネンネが村長宅で僕の帰りを待つ奥さんのように立っていた。
僕はにこりと会釈すると、彼女のほっぺたは朱色に染め上がった、そして会釈してくれた。
村長宅に入ると、リアカーに積まれた電子レンジと冷蔵庫を持ってくる。
とりあえず村長宅に置く事とした。
「これはどのように使う道具なのですか?」
「えとこの電子レンジは中に温めたい物を入れて、温めるんだ。例えばご飯を器ごと入れると、この矢印があるだろ、ここにご飯のマークがあるからそこまで回転させて、後は止まるまで待つんだ。間違っても2回転させないように2回転させるととてつもなく熱くなるから、最悪中だけで爆発するから、最後に卵は割ってから入れるように」
「へぇ、鍋とか焚火とかで温める必要がないのはすごく便利ですね」
「試しに、トマト持ってきてくれ、もちろん小さく切ったやつだ」
「はい」
トマトを持ってきたネンネは興味津々になっているようだ。
「これでチンが完了だ。触ってみろ」
「ふわあああ、すっごく暖かい、食べていいですか?」
「もちろんだ」
「はふはう、すごいです美味しいです」
僕は満足そうに頷いた。
ネンネの喜ぶ姿を見ているだけで心がどきどきする。
僕は恋なんてこの年齢になるまでした事が無かった。
それでもこの少女を見ていると心がときめくのだ。
こんなおっさんでも高校生ぐらいの少女と恋愛してもいいのだろうか?
「こちらはなんですか?」
「そっちは冷蔵庫」
やはりこの世界に含まれる魔力と言う物質は電気の代わりにもなるようだ。
電子レンジも冷蔵庫もコンセントに繋いでないのに、起動し続けている。
「冷蔵庫とはどのような物なんですか? 冷やすのですか?」
「そうだ。冷蔵庫は場所によって冷やし方が違う、こっちの冷凍庫のほうはこのケースに水を入れると氷ができる」
「な、なんと、貴族の物とされる氷を作れるのですか」
「そうだ。こちらは保冷庫、作物などを適温に保冷できる」
「すごすぎます。わざわざ地下倉庫に入れる必要がないではありませんか」
「そして普通の冷蔵の部分は、飲み物、この前もってきたジュースとかを入れたり、簡単な料理を入れて冷やして置く事が出来る。いいかここからは重要な事だぞ」
「はい」
「食べ物は熱くなって放って置くと腐る、腐ったものを食べると病気になる。しかしある程度、長すぎない期間なら保冷する事により腐る事を免れ、保冷した食べ物をレンジで温めると、新鮮ではないが新鮮に近い状態で食べる事が出来る。食中毒になりたくないならちゃんとしたほうがいい」
「その食中毒とはなんですか」
「そうだな、食中毒とはダメになったものを食べたりすると起きるものだ。死ぬ場合もあるからな、つうかお前達はどうしてんだ今まで」
「野生の動物を狩ったらすぐに解体して食べる。あと野菜は地下倉庫にしまっている。料理でダメになったら畑の肥やしにしたりします」
「そ、そうか、村は村でがんばってたんだな」
「その通りです」
「で、どうだ。冷蔵庫と電子レンジは各家に2つずつあったほうがいいか?」
「それはもちろんです。ですけどこれは高いのでは?」
「僕の倉庫に腐るほどあるから、じゃあ持ってくるぞ」
「お願いします。家は全部で10軒あります。そこに家族が住んでいる感じなので、電子レンジ10個と冷蔵庫10個お願いします」
「了解した」
「少し休みませんか? あまり動きっぱなしだと疲れます」
「そうだな」
「先程、久しぶりに小麦粉でお菓子を作りました。食べませんか?」
「ありがとう」
ネンネは小麦粉で作ったクッキーみたいなものを持ってきた。
口の中に入れるとぱさぱさしたけどなんとなく懐かしい味がした。
「今日はいい天気です。ヒロスケさんのお父様はご健在ですか?」
「昨日亡くなったよ」
「そうですか、それは残念です」
「僕はダメな息子でね、小説家になるんだとか言って家を飛び出したんだけどさ、小説家になれなくて雇われの仕事をして首になってたんだ。そんな時に父親が経営していた仕事があって、それをやっていたらここに辿り着いた。僕は今最高に生きている気がするんだ」
「小説家ですか、それはすごいですね、きっとあなたが紡ぎ出す物語は希望に満ち溢れているのですね、お父様だってきっとあなたの事が分かっていたのでしょう、そのおかげで、わたしとあなたは出会えたのですから」
ネンネの笑顔はまぶしすぎる。
そのまっすぐすぎる笑顔。
僕の心はぐちゃぐちゃになっており、そのいびつな世界は、この世界とはマッチングしない。
でも放っておく事が出来なくて、この世界を大切にしたいって思うんだ。
「きゃあああああ」
「山賊だあああ」
「にげろおおおおおお」
「た、たすけてくれええええ」
のほほんと村長宅の椅子に座ってにこにこと会話して空を見ていたら。
山賊が乱入してきたみたいで、僕は立ち上がる。
「ネンネ、君は逃げろ」
「逃げません、村長とはそういうものです」
「君は」
「だから逃げません」
彼女の頑固な顔つきに、僕ははぁとため息をつく。
腰には鉄の剣が帯られており、衣服は緑のローブを装備している。
仕方ない、2人は地面を蹴った。
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