アクドイ――それは通り名

 今回の男も噂を聞きつけ依頼してきたのであるが、渡されたのがよくできた偽物だった。怒るのも無理はないがアクアリードにしてみれば、言われた通りの仕事をしたまで。文句を言われる筋合いはないのだ。


 「所詮裏仕事だもんな! この詐欺師!」

 「随分だな。下手に出れば言ってくれる! この俺を詐欺師だと? いつ嘘をついた? それに俺に頼んだのは、お前の判断だろう? そんなに本物が欲しいのなら自分で取りに行けばいいだろう!」


 アクアリードは、ギロリと睨み、態度を豹変させた。

 男は、驚いて彼を見ていた。今まではそれなりに物腰が柔らかく紳士的で、噂で聞いたアクドイとは縁遠く感じていたのである。

 まあ、豹変させたのは、男の言葉によるものだが。


 「最初から偽物だとわかって持って来たんだろう!」

 「俺には鑑定するスキルがない。わかりっこないだろう。自分が怠った結果を人に押し付けるなよ! あんまりしつこいと、それと一緒に戻しに行くぞ!」


 盗んで来た所に連れて行くといわれ、男はギョッとする。彼なら出来る。いや、するだろう。


 「覚えておけよ!」


 負け犬の決め台詞を残し、男は慌てて部屋を出て行った。


 「いいの? また、アクドイって言われちゃうわよ」


 いつの間にか、ドアの横の壁に寄りかかる男が言った。

 とんがった耳に灰緑の髪。瞳は髪より明るい緑色だ。女の様に長い髪を右側に一つに束ね、前に垂らしている。見た目も話し方も女性だが、正真正銘の男である。


 「ルナか。ドアを閉めてくれ」

 「今回もポイント稼げなかったんじゃない?」


 誰も手が触れていないのに、ぱたんとドアが閉まる。

 ルナとは愛称で、本当はギールナーゼというが、本人はその名が嫌いでルナと名乗っている。


 「依頼を履行した時点で、ポイントは入っている」


 そうアクアリードは返した。

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