その男の名は、アクアリード
組んだ足を机の上に放り出し、大きな椅子に踏ん反り蹴っているこの男、名はアクアリードという。稀に『アク』と呼ぶ者もいる。
髪は
着ているチョッキにズボンも品がいい物で、靴はピカピカで綺麗である。それらは全て、深緑に統一され、彼の好む色だ。
彼が踏ん反り返っているこの部屋には窓はなく、壁に埋め込まれた魔力を帯びた石が淡い光を放ち、辺りをほんのりとした光で満たす。
考え事をするのには、ちょうどいい。一仕事を終えたアクアリードは、いつも通り目を瞑り思案に浸る。
「さて次は、何をするかな」
カツカツカツ。
階段を下りる音が耳に届く。音の速さにすれば、走っているのだろう。だが、全速では走れない。何せ長く真っ直ぐの階段だ。転げ落ちる。
階段がこの部屋の壁と同様に淡い光を放ち、道しるべとなって誘う。
バン!
案の定、アクアリードの思った通りに思いっきりドアが開かれた。
ドアを開いた男は、ハァハァと息を切らしアクアリードを睨むも、彼は客人が訪ねて来たにも関わらず、足を机に放り投げたままだ。
「これ、偽物だった!」
やっと息が整ったのか、大きな声で怒鳴るようにいった。
その声にもアクアリードは、反応を示さない。
「だんまりかよ! 金を返せ!」
「返せだと?」
金を返せと言う台詞でやっと、返事が返って来た。そして、アクアリードは、そのままフワリと体を浮かせ、男の前に降り立った。
「私は、あなたの言われた通りの場所から言われた通りの物を持ち出し渡した。言いがかりはやめてもらおう。それが、偽物であろうとなかろうと、私には関係ない。それに、それとお金を交換している。契約は履行された。もう私には関係がない話だ」
「関係ないだと! ギルドに報告するぞ!」
「お好きにどうぞ」
男がいうギルドというのは、善業ギルドの事だ。
アクアリードは、ディードジュエリーを所持していた。この世界では、仕事を頼む時の判断材料の一つとなる。しかしギルドは、余程の事でなければ関知しない。それは周知の事だ。
そして今回は、他の所から盗み出してくるという内容だ。他に言える訳がない。
普通は、ギルドに所属している者が行う仕事内容でもない。盗まれた者がその者の所業と知れば、ポイントが減る。ギルドに所属する者ならば、頼まれたとしてもしないだろう。
それでもアクアリードは請け負う。それは裏の噂として流れている。
だが、一度も百ポイントを下回った事がない。その為、ギルド側も噂があるが、見て見ぬふりなのだった。
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