第11話 肉食爬虫類人(2)
ひゅうがは岩に飛び付き、山頂の空に向かってよじ登りながら吠え始めた。
息を大きく吸い込むと「ヒュウ……」と音がする。「ガァァ!」
「いかん!仲間を呼んでおる。みんな逃げるんじゃ!」
長頭人のおじいさんは叫んだが、
「深追いするな、
「一応、止血は済んだわ。早くゴンドラへ」
大貴と弥生で真子の右腕の応急処置を終え、弥生が未加達を連れて行こうとした時、
キイン!キイン!キイン!
辺りに警告音が響き渡った。
この音は震度六以上の地震が十分後に来るという知らせだ。
こんな時に。
未加は泣きそうになった。
耐震構造になっている台地ならまだしも、何もない山で地震に遭えばどうなるか分からない。
ゴンドラへ向かう未加達の前に、上から何かが落ちて来た。
ガッシャアアン……!
床の岩が砕け散り、バラバラと降りかかった。
「何……?」
見るとストライプのスーツを着た虎柄のトカゲみたいな生物だった。
「グアアアァ!!」
ひゅうがと同じ虎柄。
馬みたいな長いタテガミを持った大人の肉食爬虫類人だ。
ひゅうがと比べ物にならない音量で叫ぶ。岩壁がビリビリと振動し、思わず耳を塞いだ。
斜め上からも岩が飛び散って
もう一匹いる!
もう一匹は細身で白と黒のぶち模様だった。ライダースーツを着用している。
二匹は明らかにあの石を狙っていた。
白露とダイダラボッチに加え、弥生も変身して大乱闘になってしまった。
石にへばりついていたヒト型化石の頭蓋骨が剥れ、未加の目の前にガシャリと落ちた。
恐怖のあまり動けないでいたが、流太がリュックを取って来て未加に渡した。
「未加、スキャン出来る?」
震える手でゴンドラの場所がどこにあるのか操作を始め、四人で移動した。
「この岩の向こうにあるんだけど、動かないよ!」
一枚岩の扉で行く先が塞がれている。
二度と乗りたくない乗り物だが、今、脱出するには乗るしかない。
足元から小刻みに揺れが突き上がってきた。
「地震か!まだ十分たってないだろ!」
大貴も動かそうと力を入れるがビクともしない。
が、岩がガタッと動いた。
後ろから岩の上部にダイダラボッチが手を掛けて開けてくれていた。
未加達をつまみ上げてゴンドラに乗せ、自分もお椀みたいな大きなトロッコに乗ったかと思うと、足で勢いよく蹴り出した。
真っ暗闇を猛スピードで落下していく。
四人とも悲鳴をあげて、やがて気を失い、気付いた時にはダイダラボッチに抱きかかえられて森の中を移動していた。
地震の揺れが本格的になり、筆が岳の山頂が崩れ落ちてくる。
地面も森の木々も大きく揺れるが、ダイダラボッチはものともせず走り続けた。
窪地近くになると四人は降ろされた。
揺れは収まっていた。
「あの、ありがとうございました」
それぞれがお礼を言うと、傷だらけの大男は何も言わず、にこっと笑うと行ってしまった。
頭上を、ゴロンゴロンというけたたましい音を出して二台の大型フライングカーが飛んで行く。
こんな音がするのは、かなり古い車体だ。
弥生達も無事に脱出できたのだと思うとホッとした。この先には
「昔、川だったあの窪地、火山ガスが溜まってるところね。二酸化炭素が沢山ある」
未加は気体をスキャンしていた。
高濃度の二酸化炭素を大量に吸い込むと中枢神経が麻痺し、呼吸が停止してしまう。
スキャンを左右に振ると、高濃度の二酸化硫黄が立ち昇っている場所もあった。
「真子、すごい熱だ。どうしよう」
まともに立っていられなくなった真子を流太が受け止めてオロオロしている。
傷から入った肉食爬虫類人の菌が暴れ出しているに違い無い。
「大貴!なんとかならないの?早く真子を病院へ運ばないと」
「わかってる。今、僕のフライングカーを呼んでるんだ」
大貴は耳に指を突っ込んでゴソゴソしている。
そんなところに遠隔装置があるとは思わなかった。
「ちょっと。呼べるなら、流太が見つかった時に呼んでよ」
「ガスマスクが見当たらなかったんだ。それに、彼らも攻撃的じゃなかったし、様子を見たかったんだよ」
未加が文句を言うと大貴はすぐ反論した。それを聞いて流太が仲裁に入る。
「まあまあ、フライングカーがあっても、高度がないと、ガスが入ってくるって話だよ」
「僕のフライングカーなら普通のよりもっと上昇出来る。未加にスキャンしてもらって、ガスが届かない距離まで上がって……くそっ!だめだ!」
大貴は話の途中で突然地面を蹴った。
「どうした?」
「信号か切れた。誰かに切られた感じた。あいつら、乗り換えたんじゃないだろうな」
未加はすぐに白和邇神社の方角を分析した。
「……そうかも。飛行物体を一台だけ感知したけど、噴射エネルギーが少ないし、最近の車体ね。一人、すごい大きい人が乗ってるから間違いないと思う」
白和邇神社の跡地に大貴のフライングカーを停めたままだった。
声紋キーや、他の防犯システムをどう解除したのかわからないが、弥生達に乗って行かれてしまった。
九十年前の、いつ壊れるかわからないフライングカーより大貴の最新鋭のものが逃避行には良いに決まってる。
わかるけど、このままだと真子が危ない。
三人は沈黙してしまった。
ふと、辺りの月明かりが遮られ、影になった。
SS?まだ二十四時間たってないのに。
見上げると、木々の間にフライングカーより一回り大きい小型輸送船が見えた。
そして木の枝を折りながら、カゴが降りてきた。
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