ハロの行方

桐中 いつり

第1話 美しいもの(1)

堺流太さかいりゅうたは退勤後、自分が勤める博物館へ戻って来た。


時刻は二十二時。

二月の山は真っ暗だが、月明かりが綺麗だった。


裏へ回ろうとして異変に気付いた。


影が動いている。


蓄電池室の辺りだ。

大きな影が地中に埋まっている電気ケーブルを掘り出して引きちぎっている。


看板のライトが消えた。


何という怪力。

流太は息を呑んだ。

この地方の伝説が頭をよぎる。

今はない神社に残っていた爬虫類人はちゅうるいじんの神話。

まさか……。


すぐに館長へ連絡した。

警備が来るまで五、六分だろう。事務所の裏口のドアは硬い防犯用だし、中には案内ロボがいる。多分、間に合うはずだ。

三沢さんの言う通り、事務所に石を置いて正解だった。


そう思ったのもつかの間、黒い影は簡単にドアを蹴破って、案内ロボを放り出してしまう。


流太は後先考えず事務所へ走った。


「何をしている!」「警備が来るから逃げられないぞ!」

影に向かって叫んだが反応は無かった。ただこちらを見た目が暗闇の中で鈍く光った。

「お前は……何者だ?」


影は一人で三百キロにもなる石を軽々と持ち上げ、流太に向かって突進してきた。驚いて身をかがめたが、その頭上を何度か壁にぶつかりながら通過して行った。


流太は落ちたメガネをかけ直すと慌てて追いかけ、相手がフライングカーの荷台に石を乗せ、運転席へ向った瞬間、石と荷台の隙間に滑り込んだ。


フライングカーはガタガタ音をさせながら上昇する。


流太はこの時点で後悔した。


お腹が、フワフワする……!


高所恐怖症を忘れていた。


少しも動けないまま、気を失ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る