第2話 出会いと入隊試験
するとそこには、たくさんの入隊受験者がいて、その中には見知った顔もあった。
私は、その人物の元へと向かう。
そこにいたのは、かつて私が騎士を目指したきっかけの人物だった。
その人物は、こちらに気がつくと、笑顔で声をかけてきた。
その人の名前は、
「やぁ、久しぶりだね。元気にしてたかい?レティシア嬢」
「お久し振りですわ、アリシア様。」
私の初恋の女騎士であり、今もなお想いを寄せている、アリシア・ランベルトだ。彼女は、私が騎士を目指すきっかけとなった人物であり、幼い頃に一度だけ会ったことがある。その時のことを、私は今でも鮮明に覚えていた。
あれは確か、まだ5歳の頃の話。当時、私は母に連れられて王都に来ていた。
父の仕事の関係で何度か来たことがあったが、いつもは屋敷で過ごしていたため初めて見る景色に興味津々で、キョロキョロと辺りを見回していた。
そんな時、一人の少女騎士が目についた。
綺麗な金色の髪に、宝石のような蒼い瞳をした美しい少女騎士だった。
一瞬で目を惹くほど、彼女の容姿はとても整っていて、まるで絵本に出てくる王子様みたいだと思ったことをよく覚えている。
彼女があまりにも綺麗で思わずじっと見つめてしまっていたら、視線に気づいたのか突然目が合った。
私はあまりの衝撃に固まってしまい、しばらく動けなかった。
そしてようやく我に帰った時には、既に彼女はいなくなっていた。
それ以来、私は彼女を忘れられずにいた。
そして数年後、今度は兄に連れられて再び王都を訪れた時に、あの時の少女騎士を見つけることができた。
あの時は名前を聞くことができなかったから、今度こそ名前を聞こうと意気込んで話しかけようとした。
しかし、いざとなると緊張してしまい、なかなか一歩が踏み出せなかった。
すると、そんな私に気がついてか、向こうから近づいてきた。
「こんにちは。どうしたの?」
「えっと……あの……」
上手く言葉が出てこなかった私を見て察してくれたようで、優しく微笑みながら、ゆっくりと待ってくれた。
「あの、あなたの名前を教えて欲しいんです。」
「私の?」
「はい。」
「私はアリシア。君は?」
「私は、レーナと言います。あの、また会えますか?」
「もちろん。これからも会う機会はあると思うよ。」
「本当ですか!?」
嬉しくなってつい大きな声で聞き返してしまった。
そのせいか、周りの注目を集めてしまったようだ。恥ずかしくて俯いていると、目の前からクスッという笑い声が聞こえてきた。
不思議に思って顔を上げると、そこには楽しそうに笑う彼女がいた。
「あ……ごめんね。あんまりにも嬉しそうにするものだから見てたら笑っちゃった。」
そう言って謝る彼女だったが、私はそれどころではなかった。
だって、こんなに近くで見たのは初めてなのだ。しかも、笑ってくれた。
それがとても嬉しいと同時に、胸が高鳴るのを感じた。
「……っ!いえ、私の方こそすみません……。」
ドキドキする心臓を落ち着けようと深呼吸をしているうちに、いつの間にか彼女と別れの時間となっていた。
名残惜しかったが仕方がない。
「じゃあそろそろいかなきゃ。またね、レーナ嬢。」
「はいっ!さようなら、アリシア様!」
こうして私は、彼女に恋をしたのである。
恋というには大袈裟だが私はあの日あの瞬間からずっとアリシアのことが好きである。
だからこそ、あの日憧れた場所へ行けることになってとてもワクワクしている。
それに、今日ここで彼女に再会できたことも本当に運命だと思えるくらいだ。
(絶対に合格してみせるわ!!)
こうして、試験が始まった。
試験の内容は、筆記試験と実技試験だ。
まずは筆記試験が行われる。
この世界では、魔法の才能を持つ者は稀に生まれるものの、魔法が使えるようになるのは10歳を過ぎてからだと言われている。
そのため、魔法が使え魔法が使えなくても騎士団に入団できる方法はある。
騎士団に入団するには、魔法の他に剣の腕が必要になるため、騎士団に入るための試験を受ける者のほとんどが剣術や体術の試験も受けている。
ちなみに私は、魔法の才能があったため、騎士団入団のために必要な他の条件を満たしていないにも関わらず、特例として入団することが決まっている。
そんなこともあってか、試験はそこまで難しくない。
問題なく全問解くことができた。
次はいよいよ実技試験だ。
試験官の指示に従って、決められた場所で戦うことになっている。
指定された場所に着いて待っていると、しばらくして一人の男性が現れた。
(あれ?なんか見覚えがあるような?)
どこかで会ったことがある気がしたが、どこで会ったのか思い出せない。
うーんと考えていると、相手の方が先に口を開いた。
「君が、レーナ嬢かい?」
「はい。そうですけど……。あなたは?」
「俺は、ウォルフ・シュヴァルツ・バードゲインだ。よろしくな。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
(シュヴァルツってまさか……)
シュヴァルツという名は代々王族直属の騎士へ与えられる称号だ。つまり、彼は、現国王の側近であり、 次期王となる第一王子の護衛騎士ということだろう。
そんな人がなぜ私に声をかけてきたのか疑問だった。すると、突然彼が頭を下げた。
「頼む!俺と戦ってくれ!!」
「……はい?」
突然のことに困惑してしまう。
どうしてそうなったのだろうか。
「いきなりで悪いとは思うんだが、どうしても戦ってくれないか?」
「えぇっと、理由を聞いてもいいですか?」
「どうしてもだ。理由を話すことはできない。」
「でも……」
「これは命令なんだ。」
「……わかりました。」
結局、押し切られる形で了承してしまった。
「ありがとう。感謝する。」
そして、何故か礼を言われて模擬戦を行うことになった。
「それでは、始めてください。」
審判役の教官の声によって、戦いが始まる。先手は私から。
「行きます!」
勢いよく飛び出し、そのまま斬りかかる。
しかし、簡単に受け止められてしまった。
「くっ……」
「……甘いぞ。」
次の瞬間、彼の姿が消えたと思ったら、いつの間にか背後に回られていた。
「え……?」
慌てて振り向くも既に遅く、首元に木刀を突きつけられていた。
「まぁこんなところか。」
「えっと……今のは一体……?」
何が起きたのかわからず混乱していた。
すると、すぐに答えを教えてくれた。
「君はもう少し視野を広く持つべきだ。」
「視野を?」
「そうだ。君は、相手のことを観察できていなかった。だから攻撃が読まれたし、後ろを取られてしまった。」
「なるほど……。」
確かに、私は彼にばかり意識が向いていて、周りが見えなくなっていた。
「わかったか?もう一度行くといい。今度はしっかりと見るんだ。」
「はい!」
それから何度も挑んでみたが、やはり勝てる気はしなかった。
「やっぱり強いですね。」
「いや、そうでもないさ。」
「そうでしょうか。」
「あぁ。」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「あぁ。なんでも聞こう。」
「どうして急に私に試合を挑んだんですか?」
「それは……すまない。話すことができない。」
「そう……ですか……。」
「ただ、これだけは信じて欲しい。」
「何をでしょう?」
「君に負けたくないから戦ったわけじゃない。」
「どういうことですか?」
「俺は、君の実力を測りたかっただけだ。」
どうも言っていることが理解できない。
何故、私の力を測る必要があるのだろうか。
首を傾げていると、彼が微笑みながら続けた。
「俺の勘だが、おそらく君なら大丈夫だ。」
「あの、意味がよくわからないのですが。」
「いずれわかる時が来るさ。」
「そう……なんですか?」
「ああ。」
「わかりました。」
「よし、じゃあそろそろ終わりにするかね。」
「はい。今日はありがとうございました。」
彼との試合は終了した。
試合は負けてしまったが試合の結果だけが全てではないと思う。
こうして、無事に騎士団入団試験を終えることができたのだ。
(やっと終わったわね……。)
長いようで短かった試験が終わった。
これでもう後戻りはできない。
合格発表は明日だ。
そこで自分の番号を見つけられれば良いのだが、もし見つけられなかった場合はまた一年待たなければならない。
できれば合格したいが、正直自信がなかった。
(でも、きっと大丈夫よね!)
自分に言い聞かせるようにして、家へと帰った。
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