貴族令嬢は女騎士になりたい!

神無月燿

第1話 憧れと夢

 ドルムント王国は、性別を問わず優秀な者にはそれ相応の処置がほどこされる国だ。

 そんな国だからこそ女騎士もいた。

 それを、見た小さい頃の私は、格好いい!っと思いその思いだけで女騎士を目指した。


「父上!私、騎士になりますわ!!」

「何事ぉ!?」

「母上にも言いました!」

「……何ぃ!??」


 私の両親は、私を溺愛していた。それはもう過保護な程に。でも、そんな両親も嫌いじゃなかったし、むしろ大好きだったから、自分の好きでやりたいことをちゃんと話して認めて貰ってから追いかけたくなったのだ。


「幸い私には、剣の才能がありますわ。きっと、騎士団の入団だって──」

「その自己肯定感は好ましいが、女の子のそれもろくに力仕事をしたことがない貴族令嬢がなれるほど騎士になることは簡単じゃない。」

「それでもなりたいんです!それに、私は魔法だって使えますもの!!!」

「…………」


 私が使える属性は火と水だ。どちらも中級までなら扱える自信がある。

 しかし父は首を横に振った。

 私は、自分が男ではないことを恨んだことはあれど、自分を卑下したことは一度もない。だから父がなぜそこまで否定するのか分からず困惑していると、父はこう続けた。


「お前が今よりももっと幼い頃の話だが……お前の母さんは、とても綺麗で可愛らしい人だったよ。」

「えぇ、もちろん存じておりますわ。」


 母は、美しい金髪に青い瞳をしたまるで絵本に出てくるお姫様のような人だ。そして、優しく温かい心の持ち主でもあった。


「あの人はね、よく言ってたんだ。『もしこの子が生まれたら、絶対に可愛い子に育つはず』ってね……。まぁ実際生まれた娘は予想通り天使のように可愛かったわけだけど……」


 そこで一旦言葉を区切ると、父は悲しげな表情を浮かべながら言った。


「でもね、やっぱり男の子の方が良かったとも言っていたよ。」

「それはそうでしょう。普通に考えて、跡継ぎがいないなんて困りますもの。」

「あぁそうだ。それが当たり前の反応なんだ。だが、彼女レティシアは違った。『女の子が欲しかった』と何度も言っていたよ。だから、私は彼女が望んでいるように君を育てたいと思っている。」

「では何故反対なさるんですか?」

「君の実力については疑っていないさ。ただ、君は女の子だろう?」

「えぇ、そうですね?」


意味がわからず聞き返すと、父は少し怒ったような顔をしながら説明してくれた。


「俺達は夫婦揃って親バカだと自覚しているが、それでもお前たちには幸せになって欲しいと思って育ててきたつもりだよ。特にレーナに関してはね。」

「はい……分かっておりますわ。」

「レーナは本当に良い子だ。勉強もできるし、運動神経もいい。性格だって明るくて優しい自慢の娘だ。」

「ありがとうございます。」


 褒められて嬉しくなって頬を緩めると、父はさらに話を続けた。


「しかし!それとこれとは話が別だ。そもそも、そんな理由で女であるお前を危険な目に遭わせることなどできない。」

「危険など恐れませんわ!」

「そんなことはない。現に、騎士団に入ったばかりの騎士の中には命を落とした者だっているんだぞ。」

「それは……っ!ですが、私には魔法があります!!」

「……確かに、お前には魔法がある。でもな、いくら強くてもたった一人で出来ることなんか限られてくるんだよ。私は、大切な家族を失いたくないんだ。」


 父の言葉はもっともだった。しかし私はどうしても諦めきれなかったのだ。

 あの日見た光景を、憧れてしまったものを、捨てることはできなくて──


「お願いします!どうか、騎士団に入団させてください!!」

「ダメだ!許可しない!!」

「そこをなんとか!!」

「だめだ!!」


 こうして父との攻防は続いたのだが、結局最後に折れてくれたのは父の方であった。

 しかし条件付きでだ。

 その条件というのが、『騎士団に入るまでは魔法の使用禁止』『騎士団に入ってからも、魔法を使うのは緊急時のみとする』というものだった。

 魔法が使えないのは残念だったが、魔法がなくても戦えるよう努力しようと決意した。

 それから3年が経ち、私は15歳となった。

 そして今日はその入団試験の当日だ。

 正直不安がないと言えば嘘になるけれど、それよりもワクワクしている気持ちの方が大きい。


(大丈夫、きっとうまくいく)


 自分に言い聞かせるようにして、会場へと足を踏み入れた。

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