第4話 冒険者ギルド

 村を出て幾日か。ジョーたちは、王都の入口へとたどり着いていた。


 衛兵長―――『イーサン』は、並ぶ人たちの横を堂々と歩き、訝しげな視線をもろともせずに、今日の門当番のところへ向かう。衛兵たちも堂々とした態度だが、流石にジョーはそうはいかず、向けられる剣呑な視線に身をちぢこませながら、イーサンと衛兵たちの後ろを付いて行く。


 イーサンたちに気付いた門衛たち。一方は手続き中であったため、もう片方がイーサンに敬礼した。イーサンもそれに礼を返す。


「お疲れ様です。任務ご苦労様です」

「うむ。ちょっとこの子に聞きたいことがあってな。通してくれるか?」

「はっ! どうぞお通り下さい」


 ジョーを指しそう言うと、門衛は頷き、側にある小さな扉の鍵を開けた。そこに入っていくイーサン。衛兵たちもそちらへ向かう。ジョーも恐縮しながら、後に続いた。






「あのぅ」

「ん? どうした?」


 ジョーは先ほどのイーサンのセリフが気になっていた。聞きたいこととはなんなのか?


 だが、イーサンからの返答はあっけらかんとしたものだった。


「何もないよ」

「えっ?」

「あぁ言っておけば、横入りできるだろう」


 まさかの不正だった。職業柄もっと潔癖なのかと思いきや、案外融通が利く、お茶目な性格をしているらしい。


 門を抜けると、衛兵たちは詰所へと戻る。手を振って離れていく衛兵たちに、ジョーは丁寧に頭を下げた。頭を上げるともう衛兵たちは居なかった。


「ありがとうございました」

「ふふっ。かまわないさ。これが仕事だ」


 小さくつぶやいたつもりのジョーだったが、イーサンにはしっかりと聞かれていたらしい。予期せぬ反応にやや恥ずかしさを感じながらも、歩き出したイーサンに付いて行くジョー。


 何処かへ向かいながら、イーサンはこれからのことを話しだした。


「これからのことなんだが……」

「はい」

「とりあえず身分証を作らないといけないんだ」

「身分証?」

「そう」


 王都には様々な公的機関があり、それを利用するために身分証の提示を求められることがある。なくても問題はないが、困ることはある。食糧や生活雑貨を買うときなどまで求められることはないが、割と見せろと言われることがあるので、王都に住むなら持っておいた方がいいとイーサンから説明を受けた。


「一番簡単なのは、冒険者ギルドなんだが……」

「ぼうけんしゃ……」


 冒険者とは、簡単に言えば『なんでも屋』であり、街のあちこちで一時的に人手が足りない時や、街の外でモンスターを討伐し、その身柄を持ち帰ったり、または街の外に生えている野草や果実などを、持ち帰ってくる者たちのことだ。ギルドとはその冒険者たちの管理をしている元締めのことである。


 そこまで説明すると、チラリとジョーのほうを見るイーサン。狩りをしていたことは聞いているが、どう見ても武器を振り回してモンスターと戦っている所が、想像できない。まぁ、まだ成人したばかりの歳なので当然と言えば当然であるが。


「……まぁ、行くだけ行ってみるか」


 そう呟くと、イーサンはジョーを伴って、冒険者ギルドへ足を向けた。






 ちょうど昼時だったので、屋台を回り串肉などを食べながら、ギルドに辿りついた二人。お代はもちろんイーサン持ちである。いつか返そうと誓う律儀なジョー。


 そんな二人を迎えたのは、閑散とした様子の冒険者ギルド。食事処がやや騒がしいくらいか。


「さて……誰がいいか……」


 皆交代で休憩を取っているのか、職員もまばらで知りあいの職員が一人も見当たらないイーサン。頭をかいてどうしたものかと思っていると、


「おーい、イーサン!」

「ん?」

「こっちだこっち!」


 辺りを見渡し、二度目に呼ばれた方、食事処の中を見ると、イーサンの知り合いの無精ひげの男がいた。肉をぶっ刺したフォークを振り回し、周りの人間が迷惑そうにしている。


「おぉ、シドさん。ちょうどよかった」


 独り言をつぶやくと、イーサンはシドと呼んだ男の元へと向かう。ジョーも慌ててそれに続いた。ジョーたちが近づくとすでにシドは食事を再開しており、ジョーが食べたことが無いような、とんでもない分厚い肉と格闘していた。


「ひょんで? ほまえはん、はんのひょうで……」

「ちょっと口の中整理してから喋ろうや、シドさん」


 OKと手でサインを出すと、「ん……ムぐ……んぐっ」と、口に入れた肉を飲みこむ。コップに入った水で、咀嚼した肉にとどめを刺すと、シドは座ったままイーサンたちに席を勧める。


「まぁ、座って話そうや。おーい! こっちに果実水三つな!」

「はいよ!」


 ゴリゴリ感あふれる見た目と違って、なかなか気が利く人物のようだと、ジョーは感想を持った。ついでにこの人は誰なんだろう? とも。


 二人が腰を下ろした時、すぐに注文が届いた。「まぁ一口飲め」と勧められ、ジョーたちは一口、口にした。さわやかな味が口内を満たし、喉が水分を吸収していく。思ったよりも喉が渇いていたようだ。


 それを見届けた後、シドは本題に入った。


「で? その坊主のことか?」

「あぁ、そうなんだ。実は身分証とこの子の仕事を探していてな」

「……ワケありか?」

「まぁ、そうだな……悪いことをしたわけではないのは保証しよう」


 そう言ってイーサンはシドに、ジョーが置かれている状況を説明していった。

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