city illuminated#3



 ”凡ゆる根源の色は黒。

 始まりにして終わりの色”


 ◇


 正に対照的であった。光と闇。その一つの境界を挟んで十字架を背負う男と、ジークとアカシアは邂逅を果たす。また一つギアが噛み合った。そんな予感がアランの言葉と共にジークの脳裏を過った。

 『人狼でもMOでも無い、正真正銘のバケモノ』、そうジークが述べた相手、それこそが今ジークとアカシアの前に立つ十字架の男の事を指している。ジークがこの男について初めて知ったのは五年前、まだ自らが名を失って間もない頃だった。


 ────薄闇が至る所で伸びる街角の一つで、動かず、食べず、ほぼ死人同然の生を送っていた。

 その頃、ジークはドゥムに居た。倫理の色──は灰色。自らが招いた惨劇とそこに至るまでの過程である〈思想戦争〉。名前を失った事の理由には複雑な事情が絡んでくるが、こうして自らの死を選択した事の理由には単純にこれ以上生きる理由が無かっただけに過ぎなかった。そんな頃だった、ジークが〈墓守アンダーテイカー〉の名を耳にしたのは。

 それは、純然たるでありながらドゥムに潜むどんな怪物や組織よりも恐れられる者の名であった。恐怖を纏う存在には二種類ある……理から外れた未知アンノウンと人の理解出来る或いは理解出来てしまう範囲のモノ。〈墓守〉はその後者であった。


 それはむしろ怪物の定義からは外れている。その筈なのに怪物と形容される……人でありながら怪物へと変容した一人。そうした人物はジークが知る中でも他には〈赤色のエス〉以外には居なかった。

 そこで一つジークは思考に訂正を加えた。

 エスは人かどうか危ういという点で、本来の意味で『人でありながら怪物』は〈墓守〉以外にはいない。男に興味を抱くまで時間はかからなかった。


 ジークは男に挑んだ。


 結果は────。


「アンタに言葉が通じるのか微妙な所だが、一つ交渉したい」

 その言葉に闇に浮かぶ十字架が微かに揺れた。今までジークの存在に気付いていなかった事が伺える。

 相変わらずバケモノ然としているな、そんな感想を飲み込んでジークは単刀直入に告げた。

「今、アカシアを連れて行かれるのは困る。アンタは随分とコイツを探していたみたいだが、どうしてだ?」

「うんうん、非常に困る」とアカシアも続ける。

 十字架が揺れた。そうして墓守の返答はジークにとって、否、アカシアにとっても予想外だった。二人のどちらもが大方、殺し殺される……そんな殺伐とした返答を予想していたからだ。現にアカシアは既に抜刀、臨戦状態。ジークの方も幻想兵装の展開を終了していた。

 そうした緊迫した状況で、アンダーテイカーが告げたのは──


「……協力しよう。互いの目的、求める結果に対して利害は一致している」


 ──と言い放った。その態度は変わらず憮然としたモノだったが、そこに敵意は含まれていない。二人が拍子抜けしたのは言うまでもなく、途端相対した闇が演出じみた滑稽さを帯びて見えた。しかし───


「アンタ、俺達を追ってきたな?」


 忘れていた訳ではなかった。この世界で他人の言葉を容易く信用する事がどう言う事か。


 『信用は死を招き、疑念は生を掴む』


 どこかで掲げられていたスローガンを想起させながらジークは途切れかけた緊張の糸を修復し、再度闇に佇む男を見据えた。滑稽に思えたのは先程まで。今は、邂逅した瞬間よりもはっきりと男の纏う闇、この路地裏に張り付いた闇全てが具現化した恐怖の様に、、、、、、、感じ取れていた。

 ───初めからこの男は俺を殺すつもりでここに居た、、、、、のだ。追ってきたのではなく、待ち構えていた。


「灰色鼠、お前がどれ程の器か試させてもらおう」


 闇から響く声と共に戦いの火蓋が切って落とされた。

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