city illuminated#2
「どうやら人狼どもは夜のセブンス通りとシックス通りの中間にある路地裏で出没してるらしい」
ジークが男達から聞き出した情報を語りながら該当の場所へと向かっていた。街は既に夜間灯に切り替えられ、ジークとアカシアのいるセブンス通りにも人通りが全く無くぽつぽつと街灯が灯っているのみ。人通りが無いのは螺旋街の夜は従来の都市よりずっと危険が多く潜むと言われているからだろう。
路地裏への入り口は建造物と建造物の間に多数存在しているが、確実にシックスと繋がっている路地裏というのは少ない。路地裏を歩いていたら別の街にいた、あるいはどこかの研究施設で檻に入れられていたというのはザラである。故に二人はこうして大通りを歩きながら確実に繋がっている通路を探していた。
「でもホントにあるんですか、ちゃんと繋がってる道」
アカシアが聞く。
「ああ。そこを見てみろ」
ジークが指差した方向にアカシアが視線を向ける。そこには
「これは?」
「螺旋街の管理機構に属する特殊技能集団【道切り】がこの道には何らかの問題がある事を示す証だ。つまりこの路地裏の入り口はどこか別の場所に繋がってる、もしくは手に負えないナニカが潜んでるってワケだ」
「なるほど。でもそれだとしたら人狼がいる場所もこういう風にされちゃってるんじゃないですか?」
「確かにな。だが連中が現れてからまだ日が浅いから大丈夫だ」
「日が浅いって……私達来てから結構経ってません?」
「二、三ヶ月程度ならまだ日が浅いって事だ。この辺にある道切りの証も数十年前のモノが未だに何の対処もされないまま放置されてるってハナシだしな。それに──俺もこの街は初めてじゃない」
「それ初耳ですけど。思い返したらそもそもここに来た理由とかも聞いてないんですけど」
「あぁ? 言わなかったか?」
「言ってないですね」
「言っただろう」
「いや言ってないです」
「……まぁいい、ホラ見ろ。ここは“正常”だ」
その路地裏の入り口には赤い綱が無く、洞穴の様な真っ暗闇が湿り気を帯びて伸びている。灯りが無ければ一切を取り込んでしまう闇。
「ここ、入るんです?」
「当然だ」
「っても何も見えないじゃないですか」
「こいつを使う」
言ってジークが取り出したのは点燈工房製と思われるゴシック調の洋燈。それにライターで火を灯すと路地裏の闇がまるで切り取られたかのように不自然に消え去った。
「おおー」
「こいつは【影吸い燈】、光源を動力に影を溜め込む人造幻想だ。昔使ったキリだったが持ってきて良かった」
言いながらジークが先導して路地裏へと足を踏み入れる。影が無くなった路地裏内は現実感すら無くなってしまったのか作り物の世界にさえ見えてしまう。
所狭しと並ぶ排気管と室外機の通路を進んでいき、二人は少し拓けた小さな広場の様な場所に出た。
この広場は路地裏における中継地点、主に道切りが使用する資材置き場である。
さまざまな道具を扱う道切りが使用する関係上、それなりの広さを持った空間は本来であれば、電磁フェンスが張られ普通の人間が入る事など叶わない。だというのに、今二人の前にある広場を囲うフェンスには何の防護が無く、無防備に開かれていた。
「どう見ても壊された感じですよね、コレ?」
無残に引き裂かれたフェンスを見てアカシアが述べるとジークも頷く。
「ビンゴだな。しかし……」
「明らかな戦闘痕ですもんねぇ」
「ああ。奴ら、何と戦ったのか知らないが血痕も無いという事は人狼どもも手こずる相手だって事だ」
ジークの「進もう」という声と共に二人は更に路地裏の奥へと進む。そこから先は路地裏は迷宮と化し、ある程度の土地勘がなければ戻れなくなる領域である。曲がり道を何度も繰り返されていく内に二人は進む先の奥から『キィィン』という金打ち音が響くのを聞いた。
「今のは!?」
「戦闘音だな、言っておくが手助けしようなんて思うなよ。奴らにはそんなの関係無く目撃者は消しにかかってくるぞ」
「りょーかい」
息を潜める二人。響く金打ち音。その音が不意に止むと同時、二人は路地裏を駆け出した。
先程まで戦闘が行われていたであろう空間には黒い装束に狼を模したメットを被った人狼と思われる者達の死体、それと黒い十字架を背負った大男。
「やれやれ、よりにもよってMOでも人狼でもなく正真正銘のバケモノが出やがった……!」
大男を見るなりジークの額から汗が伝った。黒のロングコート、黒の十字架を背負った中年と思しき大男はじっ、とジークを見据え、次にアカシアに視線を移す。すると、大男は口を開いた。
「やっと見つけた。こんな所にいるとはな。帰るぞ」
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