第7話 悪魔の受精卵

遠のいて行く意識の中、私の頭の中でセミが鳴き続けていた。

コキン。

群青色のグラスの中の氷が溶けて落ちる音。

その音で、目を覚ましたら柔らかい紫の光の中で私は一人だった。

「あれ!?」

半分同じの2つの受精卵が出会った、不思議な夜だった。


私は夜の匂いのする公園を歩きながら、お別れの会で会った彼女のことを思い出していた。

哀しくうつむいたその姿。

3つ目の受精卵。「会いたい」

強い衝動が私を支配し始めていた。


その衝動を抑えられなくなった私は、突然、グラスの中の弁護士を訪ねた。

「その子は 今 どうしてるんですか?」

「都内の女子大に通っておられるそうですが 申し訳ございませんが守秘義務があり

まして それ以上のことは」

「連絡って とれますか?」

「はい でも ご連絡は相手側の弁護士を通さないと」

「じゃあ 会って話がしたいって 伝えてもらえますか?」

「あっ はい そうお伝えする事は可能ですが 普通 こう言ったケースですと会っ

て頂けなと思いますが」

「でも 一応 伝えて頂けますか?」

「承知しました お伝えしておきます」

「お願いします」

「それはそうと 絵流さん 杉並の家を含めた不動産なんですが 相続する上で売

 却しないといけないと思います これは相手側の弁護士と一致した意見です」

 そんなことは、どうでもよかった。

「税金の方は金融資産で相殺は出来ますが 相続しても固定資産税などの維持費は相

 当な額となりますから」

水死体の彼の思念が入っているものなど貰う気もなかった。きっと、家は幽霊がでるだろうし、車は事故を起こすだろう。

「はい 私も いらないです 貰ったら呪われそうなんで」

「呪われるって?」

修羅場をくぐって来た、やり手の弁護士が言葉を詰まらせた。どうやら、こんなスピリチュアルな言葉を言った依頼人は私が初めてだっのだろう。

でも、今日、ここに来たのはこんなことを聞きに来たんではない。

聞きたいのは、もう一つの受精卵のこと。

「で まだ 聞いてなかったですけど その子 何て言う名前なんですか? それ

 も 守秘義務?」

彼は笑みを浮かべて私を見つめた。そして、私も見つめ返した。

「ケイさんです 白井佳さんです」

彼女もアルファベットの名前を持っていた。


「会いたい」

その衝動は、もう抑えきれなくなっていた。

私は弁護士から聞いた、だいたいの自宅の住所を頼りに杉並の西荻窪に来ていた。

緑の中、大きな家が並んでいる。ここに住んでいる人から見たら私は宇宙人かな。

水死体の彼は、投資家だったらしい。

株、為替、先物、FX。

私も闇金ならやったことはある。

これも遺伝? 笑える。 

白井、白井、白井・・・

そんな、表札はどこにもなかった。

エロ坊主に責められた太ももが痛い。

それに、宇宙人はここではそう長くは生きていられないようで頭も痛くなって来た。

逃げる様に異世界から脱出した私は寄生虫にも会いたくなって駅に戻った。

最近、人恋しくなっている。何でだろう。

券売機のボタンを押しかけたら、また、セミの鳴き声がした。

「えっ!?」

それが聴こえる方に目をやった。

「あれ?」

見覚えのある長い黒髪が人混みの中で見え隠れしている。

「ケイ?」

私は、無意識にその姿を追った。

「あれ どこ!?」

時々、見失いながらも私は、その長い黒髪を追い続けた。

セミは、まだ頭の中でまだ泣き続けていた。

コンビニ? 彼女がコンビニに入った。もう、袋の中のネズミ。捕まえた。

私は、彼女に気づかれないようにラックに隠れて監視。

これって、ストーカーかな?

彼女はお弁当を選んでいた。手に取って眺めてはまた戻す、それを繰り返していた。

何に食べるか迷ってるの?

チキン南蛮?

あー返しちゃった。

唐揚げ?

それも違うか!

サラダ?

太るから、それにしちゃいな。何で戻す?

ロースかつ? それカロリー高過ぎだよ! そうそう止めちゃいな。

結局、のり弁か。栄養のバランス悪いからサラダも買いなよ。何だ買わないの? もう!

そうそうウーロン茶にしな。なんで、コーラにする!?

私は、ハラハラドキドキしながら彼女の買い物を見ていた。笑える。

レジに並ぶ彼女の2人後ろに私はウーロン茶を二本持って並んだ。

彼女は、財布からお金を出そうといて小銭を落として慌ててる。ドジな子。

でも、何か可愛い。それを見て思わず私は、微笑んでいた。

コンビニから出た彼女の足は意外と早かった。

そんなにお腹減ってたの?

私も痛む足をを我慢して後を追う。

これで家が分かる。

暫くしたら、彼女は、公園に入った。

オシッコ? 家まで我慢出来ない?

彼女は、ベンチに座った。

私は木陰に隠れて監視。

やっぱ、ストーカー。

えっ!? ここで食べるの?

おもむろに彼女は、コンビニ袋からのり弁を取り出してペットボトルのコーラをラッパ飲み。

家、帰らないの?


おかずを少し口に入れて、モグモグ。

ご飯を少し口に入れて、モグモグ。

辺りを眺めて。

コーラを飲んで、また、モグモグ。

彼女はそれを繰り返していた。

やっぱ、お嬢様、イライラする。

もう、日は落ちかけていた。

長く伸びたオレンジ色の光が、家来の目を盗んでお城から抜け出したお姫様のようなケイを照らし出しいた。








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