第4話こんな事ってありえへん

オヤジとオカンが出会ったのは20年前。

オヤジの実家の近くの恵比寿神社やったらしい。

ま、オヤジは自分で仕事を始めるって事もあって商売繁盛の祈願で

行ってたみたい。

オカンは神社巡りとかしてて、なんか分からんけどその神社が落ち着くって

毎月行ってたんやて言うてた。


「隣座ってええかな?」

「どうぞ」

しばらく何も話さんままお互いボーッとしてたって。

そのうちオカン寝てしまったらしく、オヤジはその横でずっと空眺めながら

オカン起きるの待ってたらしい。

「おはよう」

「え、あ、おはよう」「もしかして起きるの待っててくれた?」

「そういう事になるかな」

「ごめん」

「心地よかったからええねん。俺がそうしたかっただけやしな」

そんな会話しながら気がついたら手繋いでたって。

ありえへん!もっとありえへんのはここから

「俺と結婚せえへん」

「うん」

「一緒に帰ろ。紹介するわ」

そのまま家帰って爺ちゃんと婆ちゃんに結婚するって紹介したんやて。

家まで歩きなが初めて名前言うたり仕事の話ししたり、それでも気持ちは

変わらんかった、お互いこの人やって思ったって言うてた。


俺にはいまだにその感覚は分からんけど、本能っていうか嗅覚っていうか、

なんか分からんけどそいうもんらしい。

好きとか嫌いとかそういう感情じゃなくて、共に歩いて行くっていう感覚。

お互いがそう思えて、それがずっと変わらず続いてるって本物なんやなって

思う。

恐るべし俺の両親。

出会って一年程経ってオヤジとオカンは結婚した。


「翔ちゃん。お腹痛いかも」

「生まれる?」

「まだ時間はあると思うけど、連絡だけは入れとこかな」

「俺、会社閉めてくるわ」

「え、一緒に来るの?」

「当たり前やろ。奇跡の瞬間やぞ」「一個の人間が始まる奇跡の瞬間やぞ」

「そやね」

オカンに聞いたら、そん時オヤジは目キラッキラさせて言うてたって。

心配でソワソワやなくて、嬉しくてワクワクしてたって。


その日の夜、日付が変わるほんのちょっと前に俺は生まれた。

夜中やのに、どっちもの爺ちゃんも婆ちゃんも、オヤジの友達すら病院に

駆けつけて喜んでくれたらしい。

俺の幸せはここから始まった。


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