蘇る記憶



平成24年 7月1日 福岡県大牟田市 SRT三池基地



沙羅はエリザベスの時もそうであったように、年齢や経験を重ねるにつれ、だんだんだんだんと前世に関する記憶は曖昧になったり薄れてきていた。

それ自体、彼女はこれまで特に気にしてこなかったが、この頃、妙な胸騒ぎを感じていたのである。



「規子さん、前世の今年・・・・・・今くらいの時期に何かあったような気がするんですけど、思い出せなくて」



「前世のこの時期・・・・・・私はもう居なかったから分からないけど、何かあるの?」



「それが分からないんです、うっすら何か記憶が見えるような気はするんですけど、本当に何だったか・・・・・・思い出さなきゃまずいような気がして」



「でも沙羅ちゃん、初めてこの世界に来た時政府に情報渡してるんでしょ、なら大丈夫じゃない?それに・・・・・・」




「それに?」



「上の人達が話してるの聞いちゃったんだけど、私達がここに来たのって、その沙羅ちゃんの情報からだって噂があるみたいなの」



「という事は大きな災害・・・・・・あ、水害・・・・・・そうだ!」



ここで沙羅は前世の高校生の頃の豪雨災害を思い出す。と、同時に上司に声をかけられ、基地隊司令が呼んでいると言うので、司令室に赴く事になった。



同日 午後 基地司令室



「失礼します!」



元気よく挨拶して入ると、柔らかい雰囲気の、しかし目は鋭い年配の司令官が神妙な顔で待ち構える。



「よく来てくれたね、井浦隊員」



「あの、私が何かしてしまったのでしょうか?」



「違うよ、君は訓練もなかなか優秀な成績だしね、男子隊員にも負けていない・・・・・・おっと、そんな事はどうでもいいんだ」



「はぁ・・・・・・」



「本題に入ろう、私が聞きたいのはまだ起こってもいない災害、平成24年7月九州北部豪雨と呼ばれるものについてだ」



「今回の配備はそれに関してのもの・・・・・・ですよね?」



「そうだ、信じられないが、気象台の観測では確かに明後日から朝倉、日田方面を中心に激しい雨が予想されるらしい・・・・・・13日からのものについてはまだ予測できないようだがね」



「この世界の気象台の観測能力は前世より優秀ですからね」



「それも君の口利きによるものか?」



「はい、SI情報は既に機密解除されていますので、否定する理由はありません」



「そうかそうか、君が・・・・・・」



その後に続く言葉に沙羅は背筋がゾクッとする思いがした。












「・・・・・・君の記憶があったから70年前、吾輩は負けたのか」




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